閑話

鏡よ鏡・3


 その頃、王城の一室では――


「ねぇねぇ、カガミっちぃ~」


 やってまいりました、運命のお時間です。

 さて、今日はどんな質問が放たれるのだろう。


 ちなみに今日の星座占いでは、魔法の鏡の星座(非公開)は半吉だった。微妙だ。


『念入りな準備が功を奏すでしょう。でも最後まで気を抜かないで。ラッキーカラーは、白!』


 半吉鏡の前に、王妃様が立ちはだかる。

 そして呼び掛けておきながら、入念にお肌のチェックをしている。


 ヤメテ。それ以上近づかないで。

 白粉おしろい警報発令中。傷一つないご自慢の鏡面が、汚れて曇ってしまう。


 魔法の鏡は白粉を回避するため、気合で鏡面をわずかにへこませた。


 凹面鏡は像を大きく見せる。化粧鏡などで使われるやつだ。

 少し拡大された自身の顔をのぞき込みながら、ついに王妃様はたずねた。


「わたしぃ~、キ・レ・イ?」


 そう来たか……。フッ、傾向と対策はバッチリだ。


「ええ、王妃様(の指に嵌められたゴテゴテの指輪の端についた小粒のダイアモンド)は美しいです」


「いやぁだ、カガミっちったらぁ~! んもぅ、正直なんだからあ!」


 照れた王妃様、右手をひらりと振り上げて、


 ぺしっ。


 ピシ。


「あっ――」


 ゴテゴテ指輪の隅っこダイアモンドが、ご自慢の鏡面にミクロのひっかき傷をつけていった。


 魔法の鏡、さらにへこむ。


 王妃様、さらに拡大される。


「あらっ。こんなところに、小じわが? まあ大変! ばあや、ばあやーっ!」


 去っていく後姿を見送りながら、魔法の鏡は思った。


 美は凶器だ。



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