第27話 闇世界の入り口


 そっと扉を開くと、家の中はカーテンが閉められていて薄暗い。引きこもりによく見られる特徴だ。


 これで部屋がゴミだらけだったりすると危険水域だと聞くが、そこは見守り隊の成果だろうか、小ぎれいにされていた。


 狭い部屋の中には、クイーンサイズのベッド。

 床面積の実に1/3を占めている。


 ベッドから数歩で生活のすべてが完結する、これも引きこもりルームの特徴の一つと言えよう。

 独居老人の闇は深い。


 おばあさんはフカフカベッドの中央で、口元まで布団に隠れて横になっていた。

 そして、ナイトキャップからはみ出ているのは。


 ああ、やっぱり……。


 狼だ。狼の耳だ。


 まるでツッコミ待ちのような、違和感しかない耳。

 そうとわかっていて言及するのははなはだ遺憾だが、自分がやらねば姫が犠牲になってしまう。


 何のためにここまで供をしてきたのか。

 王子は勇気を振り絞って聞いてみた。


「おばあさん、どうしてそんなにお耳が大きいのだい?」


 サイズ感よりもまず、剛毛に覆われてしまった経緯が気になるところだが、お約束としてそこはスルーしなければならないのが辛いところだ。


「この耳かい? これはねえ……」


 と、おばあさんが怪しげに目を細めたところで、ハクロが割って入った。


「ああ、また! そんなもん着けて。ややこしいから止めてくれって、狩人さんが懇願してただろ」


「そうかい? 残念だねえ。あの子は、似合ってるって褒めてくれたのに」


 おばあさんは溜息をついて、ケモ耳カチューシャを取り外した。


 ついでに、めくれた布団の中から出てきたおばあさんの寝巻きはヒョウ柄だ。ワイルドだねえ。


「あの子?」


 ばあさん、ついに幻覚を見るようになったか。ハクロは慎重に聞き取りをする。


「ほら、こないだ遊びに来てくれた女の子。グレ……、グレート……? グレーター? なんて言ったかねえ。おや、それとも、なんとかグレだったかしら」


「とりあえず、半分はグレってことだな」


 ハクロが結論付けた。

 おとぎ話に不良は不要なので、これ以上深追いせず先へ進めよう。


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