第26話 サギにご用心
良い子のハクロは言いつけを守って、途中寄り道することなく、お花摘みも
その気迫に押されたか、狼も姿を現さない。
(フッ。狼め、私の気高さに恐れをなして諦めたか……)
(プリン。帰ったらプリン……)
それぞれの想いを抱えながら、二人は早くもおばあさん宅に到着。
玄関先でハクロが声をかけた。
「おいばあさん、お菓子と葡萄酒を持ってきましたよ」
惜しい。『い』がなければ、可愛い赤ずきんちゃんのセリフっぽかったのに。
どうやら途中で「言葉遣いを丁寧に」との言いつけを思い出したようだ。
「おや、どちらさんだね?」
家の中からしわがれた声が返ってきた。
ここでポイントとなるのは、それがおばあさんご本人の声かどうかだ。
道中狼には出くわさなかったが、もしかしたらおばあさんの住所を含む個人情報がどこからか流出していて、先回りされた可能性だってある。
そうなれば、おばあさんはすでに狼の腹の中。この声は、成り済ました狼のものだ!
……と仮説を立ててみたところで、初対面の王子には判別のしようがないのでハクロに委ねよう。
「俺だよ、俺」
「嬉しいねえ。孫が遊びに来てくれたのかい」
おばあさんはモウロクしている!
畳みかけるようにハクロが棒読み台詞を述べる。
「カイシャノ カネヲ ツカイコンデ シマッタンダ」
「おやおや、それは大変だねえ。用立ててあげるから、早く入っておいで」
ハクロがドアノブに手をかけた。
王子は葛藤する。
このまま行かせて良いものか。この白く美しい手が、罪に染まってしまうというものを。
否、そんなことでは男がすたる。
「ハクロ!? ダメだよ、善良なお年寄りから金品を
「ハア? 何の話だよ。これはボランティアだって言っただろ」
「え、だって今、会社のお金を使い込んだのがバレて、今日中に返さないとクビになった上にフォース湾に沈められるって……」
注:そこまでは言っていません。
「今のは、見守り隊の合言葉だ。非力な老人が見知らぬよそ者を家にあげて、押し売りとかだったら困るだろ」
毒を以て毒を制す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます