第25話 赤ずきん



「その赤いフード、よく似合っているね。かわ……川にも、着ていけばよかったのに」


 王子は危うく「可愛いよ」と口説きモードに入りかけ、慌てて言い直した。


 王子様スマイル添えの「可愛いよ」の破壊力は良く自認している(あるいは誤認ともいう)。こんなところで発動しては王子力の無駄遣いだと自分に言い聞かせた。


 というより、男相手に「可愛い」はないだろう。

 ない。絶対にない。


 懸命に言い聞かせる王子の隣で、ハクロはフードの端をちょんと引っ張ってぼやいた。


「こんな派手なもん、いつも着てられっかよ。それに、暑苦しいし」


「それじゃあ、おばあさんに会いに行くためのおめかしなのかい?」


「あの辺は狩人さんの仕事場が近いから、間違って撃たれないための目印なんだ」


「なるほど……」


 王子は深く頷いた。

 レッドフード赤ずきんの理由に納得したわけでもなければ、自分が狩人さんの標的にされかねない危機に気付いたわけでもない。


 赤ずきん、おばあさん、狩人。役者は揃った。


 あとは、狼だ。


 この道中のどこかで現れるに違いない。

 さあ、いつでも来い(でもできれば不意打ちはヤメテ)と王子は身構える。


 お前だよ、お前。という声が風に乗って聞こえてきそうだ。


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