第23話 甘い誘惑


「見て見て、赤松! こんなにたくさん釣れたんだ!」


 なんだかんだで、王子は釣りを楽しんでお家に帰ってきた。


 といっても、嬉しそうに披露している魚籠びくの中身はほとんどハクロが釣ったもので、王子の釣果ちょうかは小魚一尾だけである。

 それでも初めての釣りで魚が釣れたのだから、嬉しいものは嬉しいのだ。


「おっ、やったじゃねえか。こりゃあ晩メシは腕振るわねえとな」


 知ってか知らずか、小人さんも慈愛の眼差しで見上げる。


 もしかしたら憐憫れんびんかもしれないが、細かいことを気にしてはいけない。


「昨日は煮込み系だったからな。今日は天ぷらか、西京焼きか……。おまえらは、何がいい?」


「プリン」


 ハクロの即答だった。


「それは魚料理じゃねええええええ」


 晩ご飯のメニューでもありません。


「天ぷらが作れるのかい? それはすごい。赤松は料理が上手なんだね」


 気を取り直して、王子。

 サイキョウヤキはなんだか語感がいかつそうなのでやめておいた。


「作れるからって、上手とは言い切れねえだろ」


「赤松は、材料があればたいていのものは作れるぞ」


 謙遜する赤松を差し置いて、ハクロのほうが自慢げだ。


「へ、へえ。赤松はレパートリーが豊富なんだね」


 王子はなんかちょっと悔しい。四十八手ならお任せあれだが、料理が畑違いであることは昨日実証済みだ。


「中でもプリンは絶品だ!」


「ほ、ほぉう……。不倫で絶倫なのかい」


 畑にはたまに変なものが生える。


「ああ。一度味わうと、抜け出せなくなる」


「それほど夢中にさせるとは。さぞかし甘い夢を見させてくれるのだろうね」


 話がねじれたまま、赤松がポッと顔を赤らめた。


「まあ、最近は、製菓にもちょっとハマってるな」


 カッコつけた言い方をしているが、要約するとこうだ。


『気難し屋のおっさん小人は、甘~いお菓子作りがお好き★』


 このタイトルに惹かれる奇特な方がいたならば、赤松のソロデビューも近い。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る