第21話 大切な仲間


「こいつらだって、放っておいてもそのうち獣の餌食になるか、狩人さんの獲物になるんだ」


 ハクロは黒曜石の瞳に可愛い動物たちを映しながら、平然と言い放った。


 美人は冷たいとよく言うが、あれは本当だったようだ。


「……でも、そうだな。こいつだけは見逃してやってほしい」


 表情が少し緩んだと思うと、その視線は少し離れた木陰を指す。


 ハクロの呼びかけで、貧相な小鹿が顔を出し、プルプルしながら近づいてきた。

 小鹿とはいえサイズはそれなりにあるので、生まれたてではないと思う。


「こいつ、要領悪くってさ。エサやっても、すぐに他のやつらに取られちゃうんだよ」


 ハクロは小鹿の頭をやさしくなでると、ポケットから小さなパン切れを取り出した。


「ほら、今日もお前のぶん、とってあるぞ」


 臆病な小鹿はハクロの手をすんすんして、食の安全性を検証する。


 そしてようやく口をつける――かと思いきや、鼻先でちょんと転がして、新たな見地から検証を続けている。

 よもやグルテンフリーを要望するんじゃなかろうね。


 王子の心配をよそに、小鹿はおもむろにパンを口にした。

 もしゃもしゃとやりながら、しょぼくれたその顔が、ちょっぴり嬉しそうだ。


 冷たいとか言ってごめんなさい。ハクロくんは優しい子です。


「ちゃんと食って、大きくなれよな、ゾンビ」


 小鹿のゾンビ……なんかちょっと、違わない?


 でも、まあ、名前まで付けて可愛がっているんだね。この子はきっと、特別なお友達なんだね。


「もうちょっと肉付けねえと、出汁だしにしかならねえからな」


 ハクロくん、食べる気満々です。




 ~第三章・森のわが家 おわり~

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