第20話 森の朝



 翌朝、王子は心地好いBGMの中で目を覚ました。


「あはは……、くすぐったいって。ちょっ、そこはダメっ」


 ただ一つ残念なことに、その音源はベッドの中の自分の隣ではない。

 窓の外だ。


 朝日の中で、森の動物たちと戯れる美少女。


 昨日は森で行き倒れるところだったのを、家に招いて、ごはんを作ってくれて、一晩泊めてくれて……これってもう、完全に脈アリですよね!?


 おっと、危ない。まだ寝惚ねぼけていたようだ。見た目は美少女でも、性別は男。正統派イケメン王子(自称)としてはそっち方面に手を出すのはマズい。


 王子は己の立ち位置を再確認してから、小屋を出てゆっくりとハクロに近づいた。


 一説によると、こういう時美しい歌声に乗せて朝の挨拶をすれば、小鳥さんも美女のハートも引き寄せられるという。


 だが実際のところ、それで小鳥が寄ってくるのは地域限定の特典だと王子は身をもって知っていた。


 ちなみにその地域とは「脳内のお花畑」である。


 だから王子は歌パートをすっ飛ばして普通に挨拶することにした。


「おはよう、姫。いい朝だね」


 もちろん、とびきり爽やかな笑顔を添えて。


「何言ってやがんだ、もう昼だろ」


 相変わらず人間には冷たいようだ。


 だがそんなそっけない態度に俄然がぜん燃えちゃう程度には、王子は立派に変態なのでご安心いただきたい。


「つーわけで、あんたの朝メシはなった」


 ハクロは地面に散らばったパンくずを指した。


 一粒たりとも残すまいと、小鳥たちが懸命につついている。王子の歌よりよほど人気が高そうだ。


「ああ、そんな。私の朝ごはんが……!?」


 昨晩あれだけ食べたというのに、目の前で自分のものが食べられていると思うと、無性に空腹を覚えるものだ。


「なんだ、腹減ってるのか? それなら……」

「え、何か作ってくれるの!?」


 ふわふわのオムレツでなくてもいい。「ちょっと焦がしちゃった☆」でも構わない。カワイイ子が朝ごはんを作ってくれるというのなら、その性別にさえ、今は目をつむろう。


「どれでも好きなの選んでいいぞ」


 ハクロは振り返って、辺りをぐるりと見渡した。


 ……え、まさか。


 森の動物たちが、つぶらな瞳でこちらを見ている。


「ええぇーっ、なぁんてこと言うのぉ? かわいそぉだよぉーっ!」


「何言ってんだ。昨日のお魚さんは、かわいそうじゃねえってのか」


 王子はぐうの音も出ない代わりに、お腹がグウと鳴った。


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