第19話 ごちそうさま



「ごちそうさまでした」


 おかわり三杯を食べ終えた頃には、すっかり日は落ちていた。


「おい、食べ終わったら流しに運んどけよ」


 赤松とハクロはすでに席を立って、部屋の内外を忙しそうに動き回っている。


 王子は食事のお礼がしたかったが、相手が女性でないので方法がわからない。


 仕方ない、ハクロが戻ってきたら、二人に感謝の意だけ述べておいとましよう。

 それにしても、結構時間かかっているな。小ではなく大をしに行ったのだろうか。


 風呂とトイレ事情はおとぎ話のタブーだ。王子がうっかり踏み込みそうになったのを阻止すべく、玄関が開いて颯爽とハクロが現れた。


「赤松、馬にエサやり終わったぞ。あと、言ってたシーツってこれでいいのか?」


 その胸には、白い布が抱えられている。赤松が受け取って、きちんと畳まれた布の端をめくって確認した。


「ああ、間違いねえ、コイツだ」


上物じょうものだな。こんなの、いつから隠し持っていたんだよ」


 二人して、ニヤリと目を細める。

 言っておくが、赤松が手にしているのは白いであってではない。


「じゃあ、姫、そっち持ってくれ」


 赤松は布の一端をハクロに預けると、トコトコと離れていく。


「せーのっ!」


 掛け声と共に、二人は両腕をめいっぱい伸ばした。


 白い大きなシーツが、風をはらんでふわりと広がる。二人はそれをベッドに降ろすと、丁寧に端を折りこんだ。


「まったく。急だったから、日干しもできやしねえ」


 赤松は何やらスプレーを取り出して、小さな声でぼやきながらシュッシュした。

 爽やかな香りが漂ってくる。


 ちなみにベッドは、小さなベッド数台を並べてつなげたものだ。


「え、これって、もしかして……」


「こんな時間にそのへんウロつかれたら、不審者以外の何者でもねえからな」

「ご近所さんの迷惑になるから、ここで大人しくしてろ」


 ご近所さんと言ったって、ここは森の中。周囲に人家は見当たらなかったが……。


 まあ、森の動物たちとか、妖精さんのことかもしれないしね。

 王子は心の中でそっと感謝しながら、温かいお布団にもぐり込んだ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る