第17話 ごはんを作ろう
「じゃあ、メシ……ごはん作るから、おまえも手伝えよ」
ハクロは途中、隣でフリフリエプロンを着込む赤松に睨まれて言い直した。
男子厨房に入るべからずを徹底してきた王子には、全てが未知の世界だ。
なんたって、厨房のメイドさんにちょっかいかける時ですら、戸口の外からにしていたくらいだもんね。
だがこの物置小屋、もとい小人さんの家は、どこからがキッチンに相当するのかさえ
ダイニングテーブルのすぐ横がシンクだし、ベッドの下からジャガイモと
あと、床下からお魚が出てきたが、そこはサスペンスの入り口な気がするので詳しくは触れないでおこう。本作はあくまでおとぎの世界だと主張する。
それではレッツ、クッキング・タイム!
まずハクロが取り出しましたのは、ガスマスク。小顔のハクロにはやや大きい。
美少年がガスマスクを被ると、もはやどこにでもいそうなただのガスマスク少年だ。
どんな過激な料理をするのかと思ったら、まな板の上に玉葱を据えた。どうやら対玉葱用特殊装甲だったらしい。
「あんたは、そこのトマトを切ってくれ」
くぐもった声が後方の王子に指令する。赤松がナイスアシストでまな板と包丁を提供した。
王子はもちろん料理なんてしたことない。
まな板の上よりベッドの上のほうが得意だ。
「そうだな、くし切りがいい」
くし切りって、何だろう。串刺しとは違うの? それとも櫛のように、先を細かく切るのかな?
あるいは……苦死斬り? 料理とは過酷なものだ。
争いごとは好まぬが、姫の願いとあらば仕方あるまい。恨むなよ。
「おい、その剣でいったい何しようってんだよ」
トマトと睨めっこしていた王子を、いつの間にかハクロが睨んでいた。
「いや、斬れと言うから……」
「はあ? 長剣で野菜切るバカがどこにいんだよ」
すみません、ここにいました。
だって、包丁なんて持ったこともないんだもん。
するとハクロは自分の包丁を握りしめたまま、
それを振り上げると、
「こうやって!」
ブシュリ。
「切ればいいだろ!」
ザクリ。
赤い飛沫が飛び散る。
こうして王子は、新たなスキル『串切り』を手に入れた!
ただしそれは、トマトを半分に叩き切ることだという壊滅的な勘違いを含んでいる。
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