第16話 ただいま


 丘を越え、薄暗い森をしばらく歩くと、小屋が見えてきた。


 素朴な木造平屋。とりたてて特徴はない。

 だが、王子は目ざとく見つけた。


「おお、ちゃんと魔除けのお札までしているのだね」


 入口の横に、ALS〇Kのシールが貼ってあったのだ。SEC〇Mじゃないのは、配色の好みだろうか。


「物置小屋にまで監視の目を行き届かせるとは、素晴らしい。それで、キミたちの居城はまだ先なのかな? 使用人が出迎えにも来ないようだが……」


 王子は腹ペコなのである。まだまだ歩かされるなんて、たまったものじゃない。


「うるせえ。ここが俺たちの家だ」


「えっ……」


 ハクロの鋭い眼光が語っている。文句があるなら帰れ、と。


「お、お邪魔しまぁす」


 王子は余計なことは口にするまいと心に決め、ハクロにならって、玄関マットでしっかりと靴底の泥を落とした。

 

 ちなみに全身泥だらけだったのは、いつの間にかすっかりキレイになっている。

 王子は崖から落ちようと、ドラゴンと血みどろの死闘を繰り広げようと、を除いては、汚れ一つ残らない仕組みなのである。


 すっかり身だしなみを整えて、髪のセットもバッチリな王子。いざ小屋に足を踏み入れようとすると――


「オイ、待ちやがれ!」


 振り返ると、小人さんが腰に両手を当てて仁王立ちしている。


「帰ったら、まずは手洗いうがいだろう!」


 みなさまも、ご自愛くださいませ。




 冷たい井戸水で手洗いうがいを済ませると、王子はもう一度入念に靴底の泥を落とし、いよいよドキドキのお宅訪問だ。


 入ってみると、中は思ったより広い。

 コンパクトなキッチンに、食器棚、ダイニングセット、そしてベッドが、


「……なんで七つも?」


 やっぱりどこかに、もう六人ほど潜んでいるんじゃなかろうか。


「ああ、そいつはオイラが、一時期家具作りにハマってた頃の作品だ」


「でもサイズ小さいから、あんまり売れなかったんだよな」


 なるほど、中が広く感じたのは、内装のサイズ感がおかしかったらしい。


 ベッドのみならず全ての家具が小人さんスケール。

 王子がダイニングテーブルについたら、保護者会で児童の席に座る父兄みたいになりそうだ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る