第15話 おうちに帰ろう



「腹減った。赤松、帰ってごはんにしよう」


「だな。久々に走って、いい運動にはなった」


 ハクロと赤松の二人は、金の斧と銀の斧をそれぞれ担ぐと、陽気な足取りで家路についた。体格に似合わず力持ちのようだ。


 追いかけっこはどうしたのかって? 臨時収入で懐が温まれば、そんなのは些末さまつなことでしかないのさ。


 ところが歩き出してすぐ、落雷の音が派手に響いた。青天の霹靂へきれきとはこのことだ。


 二人は急いで辺りを見回す。

 危険なのは貴金属の斧ではない。ここは森の中、高い木はいくらでもある。側撃雷そくげきらいにこそ用心しなければならない。


 そこへまた、


 ドゥオゴゴゴロロロロロロオォォ……


「今の音って」

「もしかして」


 二人の視線が重なった先では、王子がへたり込んでいた。


「ごめん、今のは聞かなかったことにして。昨日から何も食べていなくって……」


 静かな森に轟いたのは、王子の腹の音だったのだ。


「いいけど、そのかわり」


 ハクロの冷たい声が降ってくる。たぶん、続きはこうだ――黙っていてやるかわりに、何でも俺様の言うことを聞け。


 急激に空腹を思い出した王子には、もはや抗う気力はない。「はい、ご主人様」と答える準備をして顔を上げた。


「テメエも晩ごはんの支度手伝え」


「へ?」


 思わず気の抜けた声が出る。ハクロはすでに背を向けて歩き出していた。


「あっ、コラ、姫! またそんなもん拾って! いつも言ってっけど、ウチじゃ飼えねえからな」


 赤松がそれを追いかける。


「だから、手伝わせるだけだってば! あいつのせいでメシ作んの遅くなったし」

「『メシ』じゃなくて『ごはん』だろ! 何回言やぁわかるんだ!」

「自分だってさっき言ったくせに」

「オイラは大人だからいいんだっつってんの!」

「あー、はいはい」

「ハイは一回!」


 じゃれあう少年と小人の帰り道を、やわらかくなった午後の太陽が照らしていた。



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