閑話

鏡よ鏡・1


 その頃、王城の一室では――


「ねぇねぇ、カガミっちぃ~。世界で一番美しいのは、だぁ~れぇ~?」


 魔法の鏡は、うんざりしていた。


 鏡の主人である王妃様は、承認欲求がものすごく強い。この質問と「私、キレイ?」がだいたい交互にやってくる。

 あとは「どっちが似合う?」なんかも、たまにはさまれる。


 さて困った。

 魔法の鏡は、嘘がつけないのだ。


 正直に答えると、たぶん王妃様はブチギレる。そして八つ当たりする。

 先日はそれでみじんにされた。


 魔法の鏡なので無事復活した。

 たぶん、パズルの超達人な妖精さんとかがんでいるのだろう。


 だがそう何度も粉々にされては心が折れるというものだ。鏡に心があるかどうかはこの際考えないでおこう。


 とにかく穏便おんびんに済ませたい。

 嘘をつかず、不興ふきょうを買わず、相手側から質問を取り下げさせるには――


「そうですね。その質問の答えは、もはや私が申しあげるまでもないほど明白だとは思いますが、まずは『美』の概念から論じようではありませんか。そもそも『美』の基準は時代により、また地域により変化するものですし、加えて個人の好みというものもありますから……」


「あー、ごめん。うん。やっぱいいわ」


 魔法の鏡の作戦勝ちだ。



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