第13話 神々の遊戯



「あっ、ちょっと!? しっかりしてよ!」


 目の前でジャックに倒れられ、女神は焦った。ほんの遊び心で発した質問が、青年をこれほどまでに追い詰めてしまうとは。


 金と銀の斧を放り出して、ジャックのむくろ(生きている)に駆け寄った。


「やだあ。意地悪言ってゴメンなさいぃ! もぉ言わない。約束するわ。斧も、好きなの全部あげるからぁっ! だから、ねえぇ、起きてよぉぉ~~~」


 金の斧がドスンと地面にめり込んだ。

 銀もそれなりに重いが、特筆するほどではない。イリジウム(77 Ir)だったら話は別だ。


 その二つの斧に、小さな人影が二つ忍び寄る。


「よし、これを売ればけっこうながくになるな」


 おとぎ話の主人公には滅多に観られないような悪い顔をしている。


出所でどころがバレねえように、溶かして加工するか。オイラに任せろ」


 一般的に小人ドワーフは、鉱夫や鍛冶かじ職人とされることが多い。


 女神はもはや、そんなこと構っていられなかった。このままだと死神と化してしまう。そうなれば今度は、斧の代わりに鎌が必要だ。

 ジャックのむくろ(だからまだ生きているって!)にすがりつき、己の不運を想って泣いた。


「ねえぇぇっでばぁ、生ぎ返っでよぉ、お願いだがらぁぁぁ~!」


 古来、女性の涙には不思議な力があるとされている。


 主要な所では沈黙効果だが、時に治癒効果も発揮するらしい。『雪の女王』のゲルダや、ラプンツェルなどがこれに該当する。


 ただし薬事承認はされていないので、医療目的で使用してはならないという点には注意が必要だ。


 そんな女神の涙が効いたのか、ジャックもついに目を開けた。


 なお、彼は女神によってあまりに強く揺さぶられ、脳震盪のうしんとうを起こしていただけである。


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