第6話 夢ある世界


「すまないね、小人くん。キミのようにステキな人が、あと六人くらいは居てくれたら良いのにと、私は夢を見てしまったようだ」


 王子はさっそく、とびきりの営業スマイルを動員して籠絡ろうらくを試みた。


「一生寝てろ、ヘンタイ」


 用法用量を守って正しくお使いください。


「ていうか、おまえ、また言ったな? 『小人』って、また言ったな!?」


 どうやら赤松は『小人』という単語ワードに怒っていたらしい。「ドワーフ」や「小人」というのは差別用語ととられることがあるので要注意だ。


 王子はとりあえず謝った。さっきから謝ってばかりだ。


 なお「とりあえず謝る」という行為も、火に油を注ぐことになりかねないので要注意だ。特に女性はそういうところに敏感な傾向にある。


 赤松はおっさん小人なので、とりあえず許した。


「それで、姫。こいつ知り合いか?」


「そんなわけないだろ。俺はいつも通り昼寝してただけだ。目が覚めたら、すぐそばにコイツがいて……」


 そこでハクロは、当時の状況を克明に思い出した。とは、本当に至近距離だったのだ。


「つーかテメエ、俺に何しようとした?」


「えっ? いや、その……、ホコリが……」


 王子はごまかそうとした。勘違いで男に手を出そうとしたなんて世間に知れたら、王子の株が暴落する。


 だが黒曜石の瞳は許さない。鋭くにらみつけられて、ついに観念した。


「……すみません、キスしようとしました」


「ハア!? 他人の寝込みを襲っていきなりキスするとか、犯罪じゃねえか」


「いや、それを言われると、成立しなくなるおとぎ話がたくさん出てくるのだが」


 そう、おとぎ話の王子様たちは、若気わかげの至りを色々とやらかしている。


 ラプンツェルなんかは、育ての親の目を盗んで子作りに励み、バレて追放→荒野で出産→奇跡の再会を果たす→なし崩し的に結婚→幸せに暮らしましたとさ。

 という手順を踏んでいる。


 親への挨拶なんて最後でいい。許可申請ではなく事後報告。


 ちなみに王子様たちの設定年齢はだいたい18歳くらい。お相手の女性はそれより数歳下となることが多い。生物学的には適齢期ともいえる。


 おとぎ話の世界には、現代の貞操観念は持ち込み禁止だ。

 神話になるとさらにやることがえげつない。


 そしてなぜ、多くのおとぎ話において、王子様と結婚した時点で~The ENDジ・エンド~となるかご存知だろうか?


 そこが墓場ピークだからだ。






 大人の世界へようこそ。


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