第5話 悪意はないのです!


「ところで、他の六人は?」


 王子は周囲を見回しながら尋ねた。小人たちは七人セットで列をなして行動するものと思っていたが、他の小人たちの姿がない。一人でおサボり中なのだろうか。


「は? 何の話だよ。寝言は寝てから言え」


 寝起きの姫君はご機嫌がうるわしくなさそうだ。

 いや、姫君ではなくハクロ少年だ。


「え。だって、小人っていったら、七人じゃないの?」


「あっ! おまえ、それ言ったな? 言っちゃったな!? そういうの良くないんだぞ。差別なんだぞ!」


 たちまち小人は、ぷっくりっぺたを真っ赤にしてわめいた。


 この子は怒りん坊グランピーなのかな、と王子は推察する。七人全員の名前をよどみなく挙げられたなら、なかなかにピュアなハートの持ち主だといえよう。

 あと「小人=七人」は、差別ではないと思うんだけど。


(そう、固定観念や思い込みは含まれていても、決して悪意はないのです!)


 でも「そんなつもりのない一言」が、相手を傷つけちゃうことだってあるよね。

 己に非はないと思っても謝らねばならない。理不尽でもキレてはいけない。なぜなら、彼は王子だから。


 コンビニでプリンを買ったのに店員がスプーンをつけ忘れたとしても、グッとこらえて王子様スマイルで魔法の言葉を唱えるのだ。


「すまないね、子猫ちゃん。どうやら私は、スプーンの代わりにキミのハートをいただいてしまっていたようだ。どっちも欲しいと願うのは、贅沢ぜいたくだろうか?」


 ただしこれは一歩使い方を間違えるとブリザードを召喚してしまうため、熟練者以外は下手にマネしないほうがいい。


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