第3話 崩れ去る夢



 おっと、いかん。開拓している場合ではなかった。

 彼はお姫様を目覚めさせるのが役割であって、彼が目覚めてはいけない。


「いや、私は、ここに美しい姫君が眠りについていると聞いて。それならば私がぜひ救わねばと、使命感に駆られてやって来たのだ」


「なんだそれ? デタラメ言ってんじゃねえ。誰がそんなこと言うかよ」


 お口がだいぶお転婆てんばだが、お許しください。


「本当だ、信じてくれ! たしかに聞いたんだ。えっと……、そのへんの木こりに……」


ってなんだよ。失礼なやつだな。つくならもっとマシな嘘をつきやがれ。そしてまず全国の木こりさんに謝れ」


 数分前まで王子の頭の中では、可憐な美少女が花畑で小鳥さんとたわむれていた。期待を胸に、この丘へ来た。


 現在、小鳥は飛び去り、可憐な美少女のイメージはガラガラと音を立てて崩壊している。


 あとに残るは、冷たい風に吹かれる花々のみ。


 なお彼の脳内がお花畑なのはデフォルトなので心配ご無用だ。


「……はい、ごめんなさい」


「俺に謝ってんじゃねえ! 木こりさんだろうが!」


 姫君(?)はバサリとドレスを払いのけて、ガラスの棺から出てきた。どうやら身体の上に掛けていただけらしい。


 現れたのは、期待通りの半ズボン、期待以上に美しいナマ足。願わくは丈があと10㎝ほど短いと、なお良い。

 そんな邪心を抱きつつも、王子は全国の木こりさんに向けて謝罪した。


 そしてやっぱり、納得できない。


「キミってやっぱり、男の子なの?」


「何だよ? そんなに疑うなら、見せてや――」

「いや、いいです」


 王子は光の速さで遠慮した。証拠を見れば納得するかもしれないが、リスクのほうが大きそうだ。

 世の中、知らないほうが幸せなこともいっぱいあるよね。


「ところで、つかぬことをお尋ねしますが」


「あん?」


「その、ドレスは?」


「あ~、そのへんで拾った。昼寝のブランケットにちょうど良かったし」


 ドレスがそのへんに落ちているって、どういう状況? 洗濯して干していたら風に飛ばされた? 森の奥でいったいナニをしていたのかね? ……いや、帰りはどうした。


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