第46話 セイラムの気持ち
「セ、セイラム…。」
声を掛けながら、ドアを開けると、部屋の明かりが付けられていた。
起きているようだ…。
部屋に入りセイラムを探すと、掃き出しの窓の所で外を見ていた。
「セイラム…。」
「さくら…。俺、神歌終わってすぐ寝たみたいだな…。」
そう言いながら、部屋の椅子に座る。
「え?…あ?…えっと〜…、そ、そうみたいだね…。」
返答に困りながら、私もテーブルを挟んでむかいの椅子に座る。
「何そのはっきりしない返答…。」
…セイラム…。覚えてないんだ…。
「な、何か食べる?そろそろ起きる頃かなって思って来たんだけど…。」
セイラムのコメントを無視する。
「そうだなぁ…。あのパン食べたい…!」
「パンって?」
「さくらの手作りパン…。」
「あぁ…!あれかぁ…。あのパン、発酵させなくていいやつだから比較的早く出来るけど、それでも一時間くらいかかるよ…。いい?」
「うん…。それで…。」
「わかった…。じゃあ、早速作ってくるね。」
私は慌てて、セイラムの部屋を出て、キッチンに向かう。
そう言えば、ずっと前ノア兄ちゃんも食べてみたいって言ってたな…。
ノア兄ちゃんにも、持って行こう。
ピ…ピ…ピ…。
キッチンに香ばしい香りが立ちこもる。
「あっ、いけない…。」
いつの間にか眠ってしまっていた。
慌てて、オーブンの中身を確認する。
キツネ色に焼けたパンが整然と並んでいる。
「良かった…。うまく焼けている。」
焼きあがったパンを3つのカゴに入れ、ポットとティーカップを4脚用意する。
それを配膳用ワゴンに乗せて、セイラムの部屋へ急ぐ。
コンコン…。
セイラムの部屋のドアを叩く。
カチャ…。
「さくら、ありがとう〜。ここまでいい匂いしてた。」
そう言いながら、ドアを開けてくれる。
手早く紅茶を2人分入れて、一番多く入っているパンをテーブルに置く。
「やっぱり、さくらのパン、美味しい〜。」
パクパク食べるセイラムを確認して、私も食べ始める。
うん…。うまく出来た…。
「ところでさぁ…、さくら…。」
先程まで、ルンルンで食べてたセイラムが神妙な面持ちになる。
パンを食べてた手が止まる。
「何?」
「これが、俺のベッドに落ちてた…。」
そう言って、テーブルの上に何か置く。
そこには、小さい白いボタンが3つ。
私のブラウスのボタンだった。
ハッとして、セイラムの顔を見る。
神妙な表情のままだ…。
「…さく…らの…だよね…?」
「……。」
「神歌の時と違う服…着てるよね…。」
「それは、神歌の時はその為の衣装を着てたから…。」
「…俺…、やらかしてる…よ…な…?」
私の様子を見落とさないように、じっと観察する。
「…ま、まぁ…。」
「はぁぁぁ…。やっぱり…。」
小さく呟く。
「さくらっ!ごめんっ!」
ゴンッ!
勢い良く頭を下げすぎて、テーブルに額を強打する。
「だ、大丈夫?」
席を立って様子を見ようとする私を阻み、
「俺の事は、いいんだ。ほんと、ごめん…。」
え…。
でも、赤くなってきてますけど…。
ぶつけた直後から、もう既に赤くなってきている。
けっこう、痛そうなんだけど…。
「…俺、我慢出来なかったんだと思う…。…き…だから…。」
え?
最後の方が聞こえなかった…。
「さくらの事が好きだから…。」
テーブルに手を着いて、立ち上がる。
目線は、私を見たまま…。
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