第45話 神歌の日
「いよいよだね…。」
「あぁ…。」
セイラムは、真剣な面持ちで前を見る。
今日は、満月…。
セイラ様が歌ってた曲をセイラムが歌う日。
これで…、ノア兄ちゃんの体調が少しでも良くなるといいんだけど。
私達は、今日の為に色々と準備してきた。
ドームで歌ってた頃のように、外で歌ってそれをノア兄ちゃんに聞かせる事にしたんだけど、優さんの家が特殊なだけに色々と準備が必要だった。
普通に私達が優さんの家から出てしまうと、小屋の外になってしまうので、優さんの家にいるノア兄ちゃんの耳には届かない…。かと言って、植物との連携が日に日に弱くなっているセイラムは、家の中で歌うには力不足…。
そこで、優さんに相談すると、優さんは、セイラムの部屋から直接外へ出入り出来る掃き出しの窓を作ってくれた…。
私達は、今その窓から外へ出たところだ…。
「よろしくお願いします。」
「うん…。」
セイラムは、一度目を閉じる。
そして、藍色の艶やかな瞳が再び現れる。
月明かりに照らされ、セイラムは前へ進む。
ここには、小高い丘がないので、3メートル程進んだ所で止まる。
足首まであった艶やかな黒髪は、もう存在しない。
短く切られた髪でも、月明かりに反射してキラキラと光る。
家に背を向けた状態で、両手を広げる。
「ア〜…。」
始まった…。
確かに、セイラ様より低くいし、重奏感はあまりない…。
でも…。
ほっこりとした空気が胸いっぱいに広がっていく…。
すごい…。
顎のところがかゆい。
手を顎のところに持っていく…。
何故か指先が濡れる。
え…?何…?
頬に触れる。
濡れている。
私は、いつの間にか泣いてた…。
歌い終わって、セイラムがこちらにもどってくる。
慌てて涙を拭き、セイラムを迎える。
「お疲れ様でした。セイラム…。」
「…あぁ…。はぁ…。」
息を切らしながら、帰って来た。
「セ、セイラム…。」
慌てて、セイラムの脇の下に入り、左側を支える。
「だ、大丈夫だよ…。…さ…くら…。」
「何言ってんの!全然大丈夫じゃないじゃん…。」
そう言って、セイラムをベッドの所まで連れて行き、寝かせる。
月の光があるので、照明を付けなくても充分見える。
「はぁぁぁ…。情けなさすぎる…。体力は、前よりあるのになぁ…。」
ゴロンと横になったセイラムが手の甲で眉間のところを押さえながら、ボヤく。
「神官の歌は、ありとあらゆる力、感覚色々なものを使うっていうから、当然だよ。」
そう…。神歌を歌うのは並大抵のことでは出来ない。歌った後は、ありとあらゆるものを消耗しすぎて、生命維持する為の欲が如実に現れる。
今のセイラムは、睡眠欲が出てきてる感じ…。
「セイラム…、少し寝た方がいいね…。また、様子見に…」
セイラムのベッドから離れようとした時、私の手を取り、グッとベッドの中に引っ張り込まれると同時にセイラムの唇が私の唇を迎える。
「セ…、セイラム…?」
「さくらが欲しい…。」
そう言って、私のブラウスを左右に引っ張る。
バリッ…。
音と共にボタンが弾け飛ぶ。
ブラウスの中身が晒される。
恥ずかしいっ!
慌てて、両腕を前で交差させ隠す。
その両手首を持たれ、それぞれ私の耳の横で押さえられる。
「さくら…。」
いや…。
顔を思いっきり逸らす。
顕になった首すじのところをセイラムの舌がはい始める。
え…、え…、えぇ…!
「…ま、…待って…。待って…。」
必死で訴える。
セイラムには、私の声が届かない。
「痛っ…。」
強く首すじを吸われ、少し痛みを感じる。
ど、どうしよう…。
セイラムの事は、好きだけど…。
こ、こんな、強引には…。
「セイラムさん、失礼します。」
どこかで聞いた事のある声がした後、セイラムは、急に電池が切れたように動かなくなった。
ずっしりと私の上に乗っかったので、重い。
「セ、セイラム…?」
何とか押し退けて、ベッドから出る。
やっと抜け出して、セイラムの様子を確認しようとしたところすぐ人影に気付く。
そうだ…。
あの時、声がした…。
慌てて、ブラウスを掴んで胸元を隠す。
「さくらさん…。」
「あっ、優さん…。」
そこには、優さんがいた…。
「セイラムさんには、眠って頂きました。」
手には、注射機が…。
「ゆ、優さん…?」
血の気が引くのがわかる。
「そんなに、心配しなくても大丈夫ですよ。1時間もすれば、目も覚めます。」
「ほ、本当に…?」
「えぇ…。」
少しホッとして、セイラムの様子を見る。
苦しそうな表情は、無い。
布団をセイラムに掛ける。
「さくらさんも、気を付けなければなりませんね…。」
「え?」
「マザーカミラのデータによると、セイラムさんは、神歌の後はどうも性欲の方に引っ張られる様なので…。」
「へ…。」
そう言って、優さんは部屋を出て行った。
……。
何か、去り際にすごい事、言って行ったような…。
……。
とりあえず、私も一時間後セイラムの様子を見に来る事にして、私も部屋を出る。
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