第43話 私って…

「えっとね…。セイラム…。そのまんまの意味じゃないの…。」


「……。」


「だから、怒らないで聞いてくれる…?」


セイラムの袖口を少し持って、下からセイラムの顔を怖々と様子を見る。

バババ…。

セイラムの顔が赤くなったような気がする。


「わ、わかったよ…。言ってみろ…。」


そう言って、顔を逸らす。

よ…、よかった、怒ってないみたい。


「セイラム、ドームで歌ってた曲、歌ってみる気ない?」


「…どゆこと?」


きょとんとした顔で私を見てくる。


「神官セイラ様の歌声は、人を癒す力があるでしょ?」


「…あぁ…。」


「ノア兄ちゃんに聞かせたら、体調良くなるんじゃないかな…って思って…。」


そう言って、セイラムの反応を見る。


「……ゔ〜ん…。…確かに一理ある…かもな…。」


まっすぐ前を向いたまま、真剣に答えてくれる。


「じゃ、じゃあ…。」

「ただ問題が幾つかある…。」


「何?」


「俺は、セイラをやっていた時より随分、声が低くなっていて、当時の音程では、歌えない。それから、あの時の4音同時の声は、出せない…。あれは、植物の力を借りて歌っていたんだ…。この小屋に来た頃から日に日に、植物の力、声が感じられなくなってきてるんだ…。」


「そ、そうなん…だ…。」


セイラムの植物を仲間にする力がなくなってきてるんだ…。

もう、セイラ様はいないんだ…。

少し、寂しく思う…。


「でも…、全く同じではないけど、歌う事は、出来る。」


そう言って、私の方を見て優しく笑う。

トクン…。

私の胸が波打つ。


「俺も、ノアさんには色々世話になってるから、回復が考えられる事は、出来る限りしたい…。」


「ホント?セイラム!ありがとう!!」


そう言って、嬉しさのあまり、セイラムに抱きつく。

セイラムも私の体を包んでくれる。


「……ただ、ちょっと引っ掛かる…。」


「どうしたの?」


そう言って、抱きつくのを止めてセイラムの顔を見る。


「……さくらは、ノアさんのことばっかりだな…って思っただけ…。」


そう言って、強く私を抱き締める。

う…、苦し…。


「ノア兄ちゃんも大事だけど、セイラムも大事だよ…。」


そう言って、抱き締められたままの状態でセイラムを見上げる。


「…ノアさんと同じじゃ、嫌!なんだけど!」


「ノア兄ちゃんとセイラムは、違うよ…。」


「え…。」


セイラムの腕の力が抜けたのを見計らって、私はセイラムから、抜け出して立ち上がる。


「ノア兄ちゃんは、家族として大事…。でも、セイラムは特別…。」


「と、と、特別って…、主従関係…的…な…?」


セイラムはベッドに座ったまま、私を見上げて消え入りそうな声で聞いてくる。


「…クスッ。主従関係って、セイラムと私は、そんな関係じゃないじゃない…。セイラムがそう言ったんでしょ?」


「いや…、それは、そうなんだけど…。じゃあ、特別…っていうのは?」


真剣と不安をごちゃ混ぜににしたような顔で私を見てくる。


「う〜ん。うまく表現出来ないんだけど、どこの何にも当てはまらない特別で大事な人!」


そう言った瞬間、自分の発言にビックリした!

え…。

私…、今…、何言った…?

ガガガ…。

と身体全体が熱くなるのを感じる。


「あ、あたし…、夕食の、準備手伝ってくる…。」


慌てて、セイラムの部屋を出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る