第41話 番外編 俺の(ノア)幸せ ④
随分、昔の事を思い出した…。
窓の外を見る。
陽の光でいっぱいの景色を見る。
ここは、まだ砂漠の端だから生えている植物と言えば草が主流だが、本物の緑は綺麗だと思うし、こんなにも生命力に溢れているものなのか…。
汚染された地球で育ち、隠れてシェルターから外に出た時もこんなにも明るくて、緑がこんなにも綺麗だとは思わなかった。
この星に来て、ドーム内の緑も綺麗だと思ったが、所詮あのドーム内の植物も養殖でしかなかった…。
そう…、実感する…。
「ノア…兄…ちゃん…。」
聞き慣れた声…。
現実に引き戻される。
「あ…、あぁ…。さくらか…。」
心配そうにこちらを見ている。
出会った頃のさくらを、思い浮かべる。
随分、大きくなった…。
自然と笑みがこぼれる。
あの宇宙船でさくらと出会わなかったら、俺は生きていただろうか…?
あの時、さくらとメイに出会って守りたいって思った。
だから、俺はまた前へ動き出す事が出来た。
今の俺があるのは、さくらのおかげだ…。
「…体温…測ろっか…。」
そう言って、さくらは俺に体温計を渡す。
「あぁ…。」
俺は、その体温計を脇に挟む。
ピピ…。
しばらくすると体温計の通知音が鳴り、俺はそのままさくらに渡した。
確認しなくても高熱が出ている事は、分かっていた。
ここ5日間、こんな状態だ…。
「38度1分…。なかなか下がらないね…。何か、食べられる?食べたいものとか…。」
「ゔ〜ん。…ごめん。あんまり…。」
心配してくれるさくらに、苦笑いでしか返せない。
今は、あまり食べられそうにない…。
この高熱には、覚えがあった。
俺が、始めてシェルターの外に出た時と同じ…。
そして…、ダヤン…。
急に俺の左手が柔らかいものに包まれる。
……。
さくらが両手で俺の左手を包んでくれていた。
心配そうな顔で俺を見る。
本当は、もっと食べろ…とか、早く元気になれとか色々言いたいんだろうな…。
でも、それを言わないでいてくれるさくらの優しさが嬉しかった…。
「ありがとう…。さくら…、やっぱり、優しいな…。」
好きだな…。
本当に…、さくらの事が好きだ…。
「今だけだから…。そのうち、食べられるようになるから…。そう、心配するな…。」
これ以上、さくらに心配かけないように、声をかける。
!!
ポロポロとさくらが声も無く、泣き始めた。
慌てて、涙を止めようとしてるみたいだが、どうも止められないらしい…。
あまりにも涙がさくらの頬をつたっていくので、何となく勿体なく思ってしまった。
気付いたら、さくらの頬の涙に口づけをしていた。
柔らかいさくらの頬が、俺の唇を通して伝わってくる。
涙が落ちてしまわないように、さくらの瞳のところまで唇ですくう。
さくらの涙が俺の心を満たしていく…。
左の涙の次は、右の涙へ…。
止まらない…。
止められない…。
「…ノ…アに……。」
さくらが何か言いかけたが、俺はそれを自分の唇で塞いだ…。
さくらの唇は、更に柔らかかった…。
乱暴に扱うと、壊れてしまうのではないかと思うくらい…。
「…ノ……ア…。」
唇が離れる度にさくらは、俺の名を呼ぼうとするが、俺がそれを唇で阻む。
さくらの体を抱き上げ、自分のベッドへ引き摺り込む…。
柔らかすぎるさくらの感触…。
いつまでも、その柔らかさに溺れていたい…。
さくら……。
さくら…、さくら……。
ベッドに横たわるさくらを見た時、セイラムの顔がよぎった。
!!
「ご、ごめん…。さくら…。」
一気に、現実に引き戻された。
「お、俺、ちょっと寝るわ…。」
苦し紛れの嘘を付いて、さくらに退室してもらった…。
さくらが慌てて出ていったドアを見つめる。
「はぁぁぁ…。」
俺は、なんて事を…。
セイラム…、ごめん…。
そう思いながらも、どこか満たされた感があった。
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