第39話 番外編 俺(ノア)の幸せ ②
「あ〜…。結局そのパン、あなた達が食べてるのね…。」
俺が採ってきた果物を近所の人達にお裾分けした後、我が家に帰ってきたサライが、残念そうに呟く。
我が家といっても、シェルター街の中の自分達の部屋の事だ。
地下にあるマンションみたいなもので、皆同じ様な間取りの部屋に住んでいる。
「俺が、そうしたかったんだ…。皆と食べた方が美味しいし…。」
「皆じゃないじゃん!アイリがお兄ちゃんの分まで食べたじゃん。」
不服そうに、アンは訴える。
「…いいんだよ…。アン…。」
そう言って、アンの頭を撫でる。
ふいっとアンは、横を向いてしまう。
「あっ、そうそう…。ノアに手伝って欲しい事があったんだ…。」
取って付けたように、サライが切り出す。
「……?」
「行きながら、説明するから、着いて来てくれる?」
「えっ、あっ、うん…。」
サライの手には、何故か俺の鞄がある。
今までも俺は、大人の仕事を手伝ってきた事は、ある…。
一見、いつも通りとも思えるが、何かが変だ…。
「お兄ちゃん、お母さん、行ってらっしゃい〜っ!」
大きな声でニッコリ笑顔で、アイリは送り出してくれる。
いつも通りだ…。
アンを見る。
……。
アンは、どこかしら不安そうな顔をしていた…。
……?
……やはり、何かが違う…?
「じゃ…。行ってくる…。」
そう言って、我が家を後にした。
ずっと続く同じ景色…。
白い廊下にグレーの壁…。
定期的に現れるドア…。
このドアの向こうには、それぞれの家庭がある。
サライの顔を見る。
サライは、じっと前を見据えたまま、歩いて行く。
手伝いの説明をすると言っていたが、まだ何も聞かされていない。
そうこうしている内に、居住区から、プレイ区に移る。
ここは、植物いっぱいの公園や、動物園、ジム、映画館などなど、娯楽施設が集まっているところ。
廊下は、相変わらず白とグレーのツートンカラーだが、ドアの間隔が先程より広くなっている。
「サライ。……俺は、何をすればいいの?」
サライが口を開かないのであれば、こちらから聞くしかない…。
ピタ…。
サライの足が止まる…。
急に止まったので、俺が1メートル程先に進む。
「…サライ……?」
振り返って、サライの顔を見る。
!!!
サライは、泣いていた…。
「ど…、どうしたの?」
慌てて、駆け寄る。
「な、何でもないの…。行きましょ…。」
そう言って、サライは笑顔を作ろうとしたが、笑顔には見えなかった。
サライは、再び歩き始める。
いつの間にか、プレイ区から、生産区に来ていた。
ここは、食用植物、動物、食べ物や、衣服などをつくるところ、大人達はここで働いている。
例によって、廊下を歩いている限り、何も変わらない。
てっきり、ここでの手伝いを依頼されるのかと思っていたが、どうも違うらしい…。
俺は、この先何があるのか、知らない…。
「この先に、宇宙船に繋がるエレベーターがあるの…。」
俺の思考を読んでいたのかと思う程、ベストなタイミングで、サライは口を開いた。
「……。」
「不定期で子供達を疎開させる宇宙船が来るのを知っているだろう?」
「うん。でも、その船って皆が皆乗れる訳ではないんだよね?抽選とかって聞いたことある…。」
「そう…。その宇宙船が今日、来るんだ…。」
「ふ〜ん…。」
サライは、何故、今、宇宙船の話なんかするんだろう。
「宇宙船の抽選当たったんだ…。うちからは、1名行けるんだ…。」
「…すごいね…。倍率すごいって聞いたけど…。」
どうして、この話を俺にするのだろう。
「ノア…。」
真剣な眼差しで、俺を見る。
「お前が行け…。宇宙船に…」
「嫌だっ!」
最後まで、サライの言葉を聞けなかった。
「なんで!俺なんだよっ!アンかアイリに行かせてあげたら、いいじゃないかっ!」
たまらず、大きな声を出す。
白とグレーしかない廊下に俺の声が響く。
「10才までなんだ…!」
サライも大声を出す。
ビクリとする。
「宇宙船に乗れるのは…、10才までなんだ…。これを逃すとお前を助けてやれない…。」
「それで、いいじゃないか…。俺は、男だし…、俺は、ここに残って、サライや妹達を守りたい!アンかアイリを乗せてあげてよ…。」
サライの腕を掴み、懇願する。
「アンもアイリもまだ、時間がある。1ヶ月後又は1年後には、来るかもしれないし…。」
サライは、俺に引っ張られながら、答える。
「そんなの…。宇宙船が来ても、抽選に当たるかどうかもわからないじゃないか…!俺は、サライの本当の…」
「ノアッ!!!」
今までに無い大きな声がサライから出た。
「ノアは、私達の子だっ!私が守るべき子供だっ!」
そう言うと、俺の腕を掴み、無理矢理引っ張って前へ歩き出す。
「嫌だっ!嫌だっ!」
そう言って、抵抗しようにもサライの引っ張る力の方が強い。
「…ダヤンが亡くなってしばらくしてから、ノアが謎の発熱が3日続いた事があっただろう?」
「うん…。」
黙って、初めて外に出た時だ…。
「あの時、ノア…。シェルターの外に出たね…。」
「え…。どうして……。」
わかったの?
「…やっぱり…。そうだと思った…。外に出るとね…。悪い空気にあてられて、高熱が出てしまうの…。ダヤンもたまになってた…。だから、ノアが熱出した時…、本当に怖かった…。」
ポロポロとサライが涙を落とす。
「ノアにまで何かあったらどうしようって…。」
「……。」
「あの思いは、二度としたくないのに、あなたは、何回も外に出てしまう…。心配なのっ!だから、安全な環境で生活して欲しいっ!」
ポーン
タイミング良く、宇宙船へと続くエレベーターの扉が開く。
いつの間にか、俺達はエレベーターの所まで来ていたのだ。
「元気でね…。」
そう言って、サライは俺を突き飛ばし、エレベーターの中に入れた。
俺は、呆然とエレベーターの扉を閉まるを見ていた…。
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