第38話 番外編 俺(ノア)の幸せ ①

「ノアッ!あんたまたシェルターを出たねっ!」


「だって!支給される食べ物だけじゃあ、足りないじゃないかっ!妹達にもっと食べさせたいんだっ!」


「外は、危険なんだっ!大人でも、体調崩してしまう事だってあるんだよっ!それに、今お前が持っている実…、ヤシの木みたいな、枝もない7メートルくらいあるっていう話じゃないか…。危険な事はするなっ!」


俺の育ての親サライは、怒鳴る。

地球の空気は有害なものとなり、人類は地下に都市を作って生活をしている。

俺は、そのシェルター街の外れにある避難経路を外から帰ってきてるところでサライに見つかり、怒られている。

シェルター街の外れなので人通りも無く、辺りは、白い光沢のある床に、グレーの光沢ある壁に人感センサーで光る照明しかない。


「だって…、アンや、アイリに…。」


「ノア…。危険な事は、子供のお前がする事はないの。私は、心配なの。」


俺と目線を合わす為にサライは、しゃがむ。

サライの目が赤い…。


「私やアン達に気を使わないで…。それから、コレ…。」


そう言って、直径20センチ位のパンを俺の目の前に出す。

これは、不定期に月1回支給されるパン。

俺も、妹達も大好きなパン。


「今日は、9才の誕生日だね。今日は、特別にそれ、一人で食べておしまい…。」


俺の目を覗き込み、ニッコリ笑う。

ポンポンと俺の頭を軽く叩き、立ち上がる。


「せっかくノアが採って来てくれた実…、近所の皆と分けよう…。」


そう言って、その場を去る。


今、俺の家族は、母親のサライと4才下のアンと6才下のアイリだ。

4年前には、父親ダヤンもいた。

ダヤンは、アイリがサライのお腹の中にいる時に、病気で亡くなってしまった。

病気のきっかけになったのが、食料調達の為にシェルターの外に長時間出ていた事だ。

俺とダヤンとサライは、親子といっても、血は繋がっていない。

ダヤンとサライが結婚したばかりの頃、俺は施設から二人に引き取られた。

2才の時だ…。

それから2年後にアンが生まれ、2年後にアイリ…。

ダヤンもサライも俺を我が子の様に可愛がってくれた。

ダヤンは、まだ字も読めない幼いオレにシェルターの外の事、教えてくれた。

背の高い木になる実の採り方

小動物、鳥の狩り方また、捌き方

俺が大きくなったら、一緒に連れて行ってやるって何度も約束して、その度にサライに怒られた。

俺は、ダヤン、サライに随分助けられた。

せめて、彼らの子供のアンやアイリが飢えないようにしたい…。

そう思って、大人の目を盗んではシェルターの外に出て、数少ない食料を調達してきた…。

今でこそ、高い木に登ったり、鳥を捕らえて捌いたり、慣れてきたけど…。

はじめてシェルターに出た時は、大変だった。

何も取る事が出来ず、外の空気にあてられて3日間寝込んでしまった。

黙って外に出た…何て言えないから、謎の発熱に、サライにいらぬ心配をかけさせてしまった。


「ふふ…。」


一人で、何となく、笑ってしまった。


「あっ!お兄ちゃん〜!」


アンとアイリが俺を見つけて走ってくる。

3才のアイリは、そのまま俺にダイブして抱き着いてくる。

左手にパンを持っているので、右側でアイリを抱き留める。

そこで、初めてパンの存在に気付く…。


「あれ…。パンだぁっ!」


嬉しそうに声を上げる。


「お姉ちゃんと分けるんだぞ…。」


そう言って、アイリの頭をポンポンをたたいて、パンをアイリに渡す。


「やったぁっ!!お姉ちゃん、行こっ!」


そう言って、走って居住区の方に戻って行く。

彼女が走って行く度に、次々と照明がついていく。


廊下には、アンと俺だけになった…。


「…お兄ちゃん…。良かったの?」


「…何が?」


小さくなったアイリの背中を見ながら、問う。


「今日、お兄ちゃん、誕生日でしょ?あのパン、お母さんから貰ったんじゃあないの?」


横にいるアンを見る。

アンは、まっすぐ前を向いたまま…。


「…そんな事ないよ……。」


そう言って、前を向く。


「…、お誕生日おめでとう…。」


「え…っ。」


驚いて、横を見る。

アンは前を向いたままだ。


「お兄ちゃんも早くおいでよ!出ないとアイリが全部食べちゃう…。」


そう言って、アンはアイリを追って走り出した。


「あ…あぁ…。」


幸せな気持ちでいっぱいで俺の心を満たす。

大事な俺の家族…。

守って行きたい。ずっと…。

今はまだ、子供だけど、今日より明日…、明日より1ヶ月後…、俺は確実に大人に近付ける。

そしたら、もっと俺の家族を守る事ができる。

そう、思った…。



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