第36話 彼女の名前

「さぁ、続きを話しましょう。」


私達に冷たい飲み物を用意してくれた。

私とセイラムはゴクゴク飲む。

ノア兄ちゃんは、一口だけ飲み、長椅子の隣の小テーブルの上にコップを置く。


「あなた達は、これからこの星の住民として生きていく事が出来ます。」


彼女は、順番に私達の顔を見る。


「今まででも、神官はドームの貢献者として特別にこの星の住民になる権利を獲得する権利を貰えてました。」


「住民になる権利を獲得する権利?」


??

何か…、ややこしいな…。


「神官皆が、住民になれる訳ではありません。それなりのテストがあるのです。」


「テスト…?」


彼女は、席を立ち飲み物の入ったポットを持って来て、私達のコップに入れてくれる。

ポットをテーブルの上に置き、再び席に着く。


「あなた達は、ドームから出てこの小屋まで、あの砂漠地帯を抜けてきましたね…。」


「あ…っ、はい…。色々な便利道具使いましたが…。」


彼女は小さく頷く。


「それでいいんです。ドームから小屋まで到着する…、それがテストになります。」


「いつもなら、一人なんですが、今回は超異例の三人のテストという事で、色々と準備させて頂きました。」


「どうして、テストをする必要があるのですか?」


「……、少々、言いづらいのですが…。振り分ける為と、この星の生活水準に慣れて行くきっかけを作る為です。」


「……。」


振り分け…。

ゴクリと喉が動く。


「通常なら、元神官のみがこのテストの受験資格があります。ただ、全ての神官が、この小屋に辿り着く訳ではありません。」


「……。」


「私達は、なるべく辿り着けるよう、神官になる人間には色々と教育し、体力も付く生活をさせてます。……、そうですね…。セイラムさん。」


「え…っ。あ……、そ、そうだな…。」


急に振られて、ビックリするセイラム。


「神官に決まってから、カミラから北北星の事やら、聞いたな…。」


「今回は、さくらさんも付いて行くだろうと、マザーカミラの判断だったので、急遽、付き添い人としてノアさんを付ける事となって…。そこからは、ノアさんもご存知でしょう?」


次は、ノア兄ちゃんにふる。


「あぁ、突然あの女が現れて、訓練の受けてない女の子が砂漠を渡るので、手伝って欲しいと言って、色々と便利道具の設計図を持って来た…。それを元に俺が手を加え、極秘に作った。」


少し、顔色が戻ってきたノア兄ちゃんが寝たまま答える。


あの便利道具は、カミラ先生とノア兄ちゃんの合作だったのね…。

私の中で一つの疑問が頭の中をよぎる。


「通常なら、神官一人がこのテストを受けるって事みたいですけど、女性1人であの砂漠を渡るのは、かなり無理があるのでは…?」


私の質問に、ニッコリと彼女は微笑んだ。


「それは、それなりの道具を持たせてドームから出ます。それぞれの個人能力に沿うようにして、実現できるようにドームを出すのですが、思うようにならない時もあるのです…。」


悲しい表情になる…。

……。

そうか…。

カミラ先生と違うところ…、分かったような気がする…。


「一つ、提案なんですけど…。」


三人の視線が私に集中する…。


「あの…、カミラNo.2さん…。ゆうさん…って呼んでいいですか?」


「「え…っ。」」


三人の声が揃う。


「今…、その話?」


セイラムがボソリと呟く。


「えっと、だって、No.2って呼びにくいし、カミラ先生と同じってあなたは、言うけれども、全然違う…。優しくってとても優雅…。だから、その優を取って!どうかな…?」


「確かに、カミラと違うよな…。良いと思う…。」


「なんか急に話変わったけど、さくららしいわ…。俺もいいと思うぜ…。」


二人の同意を貰い、彼女に声掛ける。


「…ね。……良いでしょ?」


「私に、名前…。」


彼女は、嬉しそうに笑った。


そう、彼女はカミラ先生より、表情豊かだ…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る