第29話 動物の存在

「せっかく頂いた命、残らず活用しないとな…。」


そう言って、手慣れた様子で鳥を捌いて、少しでも長く保存出来るように加工していく。

内臓は日持ちしないのでモツ煮にしていく。

相変わらず、ノア兄ちゃんはすごい…。

ドームの中で生活してきて、こんな経験ってするものだろうか?

私は、ずっと宮のドームだったから、居住区のドームがどんなところか知らないけれど…。


「さくら…。」


「あっ、セイラム…。」


セイラムが私の隣に座る。


「ノア兄ちゃん…、何かすごいね…。」


「あぁ…。あいつさ…、あいつと風呂入ってたらさ、チラリと影が通っただけで、さくらが危ないって言って、ナイフ持って飛び出して行ったんだ…。」


「へ、へぇ~…。」


「だから、間に合った…。」


ふと、セイラムの方を見る。

セイラムは、私の方をずっと見ていたのだろう、すぐ目が合う。


「無事で、良かった…。」


私の目を見たまま、静かに訴える。


「…何一つ、あいつに勝てるところがない…。完敗だ…。」


そう言って、下を向く。


「完敗って…。セイラムとノア兄ちゃんは、何の勝負をしてるの?」


「あ…っ、いや…。別に…。な、何の勝負もして…、な…い…よ…。」


ほのかにセイラムの顔が赤くなる。


「俺が、勝手に……。」


「セイラムは、セイラム。ノア兄ちゃんは、ノア兄ちゃん。じゃない?お互いそれぞれ得意な事もあればそうでないものもあるもんじゃあないの?」


「いや、でも…。俺があいつに勝ってる事なんて…。」


「だから、勝つって何?」


「……。」


「セイラム…。今は敢えて、セイラ様。あなたは、どれだけどの人を癒して来たと思ってるんですか…?貴方は、唯一無二の存在なんですよ…。もっと、自分に自信持ったらどうですか?」


「そんなの、俺には要らない。意味無いんだっ!俺は、お前しか要らないっ!お前を守るのは、俺でないと嫌なんだっ!俺だけが、守りたいんだっ!!」


「私は、充分セイラムに守られてます。セイラムに救われてます。」


自分の胸に手を当て、セイラムの顔をじっと見る。


「そ、そんなこと…」

「ハイハイ。お取り込み中…。モツ煮出来たから、食べようぜ。」


ノア兄ちゃんが!私達の間に入り込んできた。

確かにいい匂いする。

複雑な顔で、焚き火に向かうセイラムを見て、私も複雑な気持ちになる。

何をそんなに、思い詰めているのだろう。



ノア兄ちゃんの特製モツ煮に卵が入っていた。


「あれ?卵って…、どうしたの?」


「あぁ…。それ?それな、巣から採ってきた…。」


「巣…?巣があったの?」


「あぁ…。鳥がさくらを襲ってるのを見て、もしかしたら、巣の卵を守る為かもと思って木を双眼鏡で見たらあったんだ。だから、登って採ってきた。」


「登って採ってきたって、ここにある木、全部めちゃくちゃ高いよ。木の枝も無い一本立ちの木なのに…。」


「ま、まぁな…。コツがあるんだ…。それより、鳥がいるってことは、この鳥が食べる小動物がいるってことだし、動物が住める環境があるって事だ…。」


下を向いて、うずくまっていたセイラムが顔を上げる。


「俺達が目指しているところは、本当に俺達が住める環境がある可能性が高まった。あの女の言ってる事は、合ってたんじゃないか…。」


ノア兄ちゃんもセイラムを見る。


「セイラムが居なければ、ここには辿り着けなかった。良かったな…。大きな前進だ…。」


「……。ノアさん…。俺に、剣術を教えて下さい…。」


セイラムは真剣な目で、ノア兄ちゃんを見る。


「…、あぁ…、いいぜ…!俺は厳しいけどな…。」


親指を立て、ニッコリ笑った。

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