第26話 続かない会話

「さすがに今回は、疲れた…。」


ノア兄ちゃんは、オアシスに着くなり、木陰に座る。


「はい、ノア兄ちゃん。」


水にビタミン類を混ぜたドリンクを渡す。


「あぁ、ありがとう…。」


一気に、飲み干す。


「ちょっと、寝るわ…。」


ほんとは、テントの設営とかするんだろうけど、余っ程疲れていたのだろう、すぐ寝息が聞こえた。


「とりあえず、私達が出来る事しよっか…。」


「そうだな…。」


ここのオアシスは、この間のオアシスより規模が大きい。

よく見ると、木には実もなっている。

あれは、食べられるのだろうか?

また後で、ノア兄ちゃんに聞こう。

ある程度の広さがある所に、テントを立てる事にした。

その隣に今まで通りの、大きな傘みたいなテントを張る。


「セイラム、火起こせる?」


「あ、あぁ。今、見様見真似でやってる。」


見ると、集められた枯れ枝からは、白い煙が…。

おっ!何とかなりそう…。

私は、食事の準備をする。

と言っても、今は正午過ぎ…。とてつもなく暑いので、サラリと食べられる物がいいな…。

ノア兄ちゃんの荷物から、素麺とうどんの間くらいの太さの乾麺を見付けた。

よし!今回は、これを使おう。


「美味そうな、匂いがしてきたな…。」


いつの間にか、ノア兄ちゃんが隣に来ていた。


「ノア兄ちゃん、もう大丈夫なの?」


「あぁ…。うん。ぐっすり寝て、スッキリ…。」


「出来た~。セイラム、出来たよ~。皆で食べよ~。」


セイラムもやって来る。

皆で食べ始める。


「さっぱりしてて、食べやすいよ。さくら。」


ノア兄ちゃんがニッコリする。


「ありがとう〜。やっぱ、食べないとね!」


「ノアさん…。後で、一緒に池の様子見に行ってもらっても…。」


「ノア!でいいよ…。気持ち悪い〜。そうだな…。池に行って、水質の調査と水浴び出来るようにネット張ろう。」


「そしたら、私は、水質OKだったら、タオルとか服とか洗うね。」


「いや、服は自分達それぞれ洗おう。タオルは、お願いしようかな…。」


「服ぐらい、私洗うよ?」


「いや、そこは自分達でしよう。な、セイラム…。」


「あぁ…。」


最近、セイラム、元気がない…。



水質がOKだったので、セイラムと水を汲んだり、タオルを洗ったりする。


「……、セイラム…。最近…、元気無いね…。」


パシャパシャ水の音が響く…。


「え…?あぁ……。」


何ともはっきりしない返事…。


「ほんと、どうしたの?」


いつもなら、なんて事ない内容からでも会話が弾んでいくのに…。

最近、とにかく会話が続かない…。


「……、私の事…、嫌いになった…?」


恐る恐る心の何処かで思ってた事を聞いてみる…。


「な!何言ってんだよっ!俺がさくらを嫌いになる事なんか……。」


言いかけて、辞める。


「……。やっぱり…。嫌いに…。」

「違うっ!嫌いじゃないっ!」


「じゃあ、どうして?最近、私に対してよそよそしくない?……まぁ、ノア兄ちゃんにもよそよそしいけど…。」


「……。」


「今回の事だって、辛くなる前に私にでも言ってくれれば良かったのに…。」


「……。」


「10年…。10年、側で仕えてきて、ほんとに辛い時、訴えてくれなかったって…、辛すぎます。」


ポタポタポタ…。

涙が一気に溢れ出し、私のズボンを濡らす。


「さ、さくら…。ご、ごめん。」


私の涙を見て、慌てる。

ただ、慌てるだけで、いつもの様に抱き締めてはくれなかった。

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