第18話 セイラムと呼んで

「この辺にテントはろう。」


そう言って、鞄につきさしていた大きな棒状の物を取り出す。


「あの辺まで、離れて…。」


3メートルくらいにある木の所を指す。

私とセイラム様は、指示通りに離れる。

ノア兄ちゃんも私達の所に来て、ポチッと押す。

バンッ!

でっかいテントが現れた。

すごっ!


「ここで、1回睡眠とろう。ま、その前に腹ごしらえと小さくて浅い池があるし、風呂だな…。」


「お風呂の前に、さっき使ったタオルとかは、洗っておくね…。」


「俺も水汲みに行く。」


そう言って、セイラム様は、皆の水筒と料理用の水用にバケツを持つ。


「俺は、火の準備するわ…。」


ノア兄ちゃんは、また鞄の中をゴソゴソし始める。


私達は、一緒に池に向かう。

少し私の先を行くセイラム様…。

あんなに長かった黒髪も短くなり、広い背中が男性だと言う事を物語っている。

頭では、わかってる…。

セイラム様が男だって事…。

ただ、私の心が追い付かない…。


池に着いて、次々と水を汲んでいく。

私はその隣に座る。

セイラム様が汲み終われば、タオル洗い始めよう…。

……。

水汲みが終わったので、タオルを洗い始めようと水に手を浸けた時、

グラリ。


「さくら!」


体勢を崩し、体ごと池にダイブしそうになるのを止めてくれた。


「あ…。…ありがとうございます。」


一瞬、自分の身に何が起こっていたのか、分からなかった。


「さくら…、大丈夫なのか?」


「だ、大丈夫ですよ〜。」


と、私を支えているセイラム様の腕を振りほどこうとするが力が入らない。

そのまま、セイラム様の胸に倒れ込む。

ふと、ホッと安心する匂いが私に触れる。


「さくらっ!さくらっ!…。」


セイラム様の声が聞こえたような気がした。



「さくら…。」


セイラム様の顔が見える。


「セ…イ…ラム…さ…ま…?」


セイラ厶様越しに見える布張りの天井…。


「こ…、ここは…?」


「テントの中…。あっ、起き上がらないで…。」


起き上がろうとする私を手で制する。


「あっ、でも…。何か飲んだ方がいいか?さくら、何か飲む?」


「いえ、セイラム様にそのような事…。」


起き上がろうとした私を、優しくサポートして、座らせてくれる。


「はい…。」


私に飲み物を渡してくれる。


「…おいし…。」


爽やかな風味が喉を通る。

セイラム様は、右手で私の肩を抱き、左手で私の左手を握る。


「なぁ、さくら…。さくらを俺に守らせてくれないか…?」


「そ、そんな…。セイラム様に…、」


人差し指を私の口元に持ってくる。


「セイラム。様は、そろそろ取って…。」


そう言って、飲み干したコップを私の手から取り上げ、邪魔にならない所に置く。


「セイラムって呼んで…。さくら。」


「そ、そんな…。出来ません…。」


「そう…?」


そう言うとセイラム様は、私を押し倒す。


「セ、セイラムさ…ま?」


「セイラム!」


セイラム様の顔が近付いてきて、舌が私の首筋を這う。

ビクッ。


「や、やめて…。」


「やめない。セイラムと呼ぶまで…。」


唇が鎖骨のすぐ上の首のところを捕らえて離さない…。

ヌルりとした感触が私の首を支配する。


「あ…っ。や、やめて……。セイ、セイ…ラム…。」


何とかセイラム様の様を取って呼んでみる。


「……。はいっ。仕方がないなぁ。辞めてあげるよ…。」


セイラム様は、明るい声で起き上がる。

さっきまでの雰囲気は、どこに行ったのだろう…。

でも、ホッとする…。

男セイラ様には、まだ慣れない…。

抱きしめられたり、押し倒されたり…。

……。

あれ…、

…そう言えば…、

…セイラ様の時もされてたな…。

何も、変わってない?

もしかして…?


「さくら!食事が出来た…。食べに出て来れるか?無理だったらこっちに運ぶが…。」


ノア兄ちゃんがテントの中に入ってくる。


「あ…、大丈夫…。食べに行くよ…。」


起き上がろうとする私を支えながら、耳元で囁く。


「さくら、そのブラウス着替えてきた方がいい…。」


そう言って、セイラム様はテントから出て行った。


「え?」


そう言って、自分の格好を確認する。


「やだ…。」


ブラウス1枚になっていて、胸のところが大きく開いていて、チラリと下着が見えてしまっている。

しかも、何となくしっとり濡れているせいか、ぼんやりと白いブラウスの下の皮膚が透けて見える。


ひえぇぇ…。

慌てて着替える。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る