第17話 目指せオアシス

「だんだん暑くなってきましたね…。」


砂漠のど真ん中を歩き出してどのくらい立ったのだろう…。

どのくらい進めたのだろうか…。

ずっと同じ景色が続いていて、何が何やらわからない…。

前に進める足は砂で思うように進めない。

試しに顔に巻いているヒジャブを、取ってみる。

……。

暑い…。

日光が直に当たって、余計に暑くなった…。

慌てて、元に戻す。

陽が出てくるまでは、どちらかと言えば寒いぐらいだったのに…。


「さくら、もう少しだ…。植物の声も大きくなってきている…。」


そう言って、励ましてくれる。

ただ、セイラム様が植物の声が大きくなってきているって言う割には、それらしきものは見当たらない…。

……。

絶望…。


「ふふっ。そろそろ1回休憩しようか…。」


私の表情を読み取ったノア兄ちゃんが笑いながら、提案してくれた。


…ま…待ってました…。

ただ…、止まっても、暑いけどね…。


ノア兄ちゃんが鞄から折りたたみ傘っぽいのを取り出し、砂場に軽く突き刺す。

それから、真ん中の方にあるボタンを押した。

バッ!

音と共に、大きい傘の様なものが出来上がった。

地中にも深く入り込み、そう簡単に倒れそうにない。

砂漠に大きな影が出来る。

超ハイテクだ…。


「はいはーい。2人共、影に入って~。今、扇風機も出すから〜。」


そう言ってさっきより小さい棒を取り出したかと思うと、これもスイッチ1つで扇風機になった。


……。

なんか…、すごっ…。


「セイラム…、そっちの鞄に飲水と冷やしタオルが入ってるはずだ…。」


「え…。あ…。」


セイラム様は、持ってた鞄の中身を漁る。


「ちょっと分かりにくいかもな…。」


そう言って、テーブルのセッティングを終えたノア兄ちゃんも、一緒に探す。


「あ、あったあった。」


取り出したのは、500mlくらいの水筒とコップ…。

え?小さくない?


「悪いさくら、入れてくれ…。」


そう言って、その水筒を私に投げる。

パシ…。

とりあえず、受け取る。

重くもなく、軽くもなく、普通の500mlの水筒だ。

?マークのまま、3つのコップに入れていく。

あれ?

無くならない…。


「それね…。そう見えて、10L入るんだよね。重くもないし…、超便利グッズ…。」


「へ、へぇ…。」


続いて、パックに入ったタオルを取り出す。


「ほい。」


と、セイラム様と私にタオルも渡してくれる。


「冷たい…。」


「このパックは、入れると冷えたり、暖かくなったりする、携帯の温冷庫なんだ〜。」


さっきからすごいの出てきてるね…。


「やば!気持ちいいっ!」


いつの間にか上半身裸になったノア兄ちゃんが、冷やしタオルで体のあちこちを拭いている。


ひゃあああ…。

恥ずかしい…。


ふと、セイラム様の方を見る。


ぎゃああああ!!


セイラム様も上半身裸になっていた。


「セ、セ、セイラム様!だ、駄目ですっ!」


慌てて、その辺の布で隠しに行く。


「さくら?どうした?」


キョトンとするセイラム様…。

……。

そ、そうだった…。

男だった…。

ノア兄ちゃんと比べると、華奢だけど、立派な男性の上半身…。

そんな…男の人を見てるわけではないけど…。

やっぱ、女性の私とは違う…。

とりあえず、私も顔に巻いていたヒジャブを取って、3つくらい開けて、首筋とか、鎖骨を拭いていく…。

冷たくて、気持ちいい…。

顔の火照りがすぅっと引いていくのがわかる。


ふと、セイラム様とノア兄ちゃんの姿が目に止まる。

2人共呆然と、私の方を見てる。


「?…どうしたんですか?私に、何か付いてます?」


「「いやいやいや!別に!」」


2人ハモる。

仲、いいね…。


慌ててノア兄ちゃんは私に背を向け、セイラム様はそんなノア兄ちゃんを睨む。


あれ?仲悪くなった?


「さくら!自覚無さすぎっ!!」


セイラム様が私の前に来て、怒り出す。


ちょっと、待って…。

思わず、顔を逸らす。


「ちょっと!聞いてる?」


私の態度が気に入らず、ますます近付く…。


「セ、セイラム様…。ふ、服を着て下さい。」


両手をセイラム様に精一杯伸ばし、顔を逸らしたまま、訴える。


「ぶっ!!セイラム!自覚無さすぎ~。」


と、ノア兄ちゃんが吹き出しながら、先程のセイラム様のセリフを真似る。


みるみる顔が赤くなり、慌てて上着を着始める。


……。

か、か、かわいい〜。セイラム様!


「ほら、さくらも…。」


と言って、私の上着の胸のボタンを締め始める。


「セ、セイラム様、わ、私、自分でしますよ…。」


「ほら、出来た…。」


そう言って、手を離す。


「そろそろ、出発しようか。」


「あぁ。」

「はぁ〜い。」


「ほら、水筒!各自で持とう…。」


そう言って、私達に1本ずつ渡す。


私達は、再びオアシスに向かって歩き出した。


充分涼んだ後なので、足取りも軽く感じる。


陽が随分高くなってきた。


「おい!見えて来たぞ!」


先頭のノア兄ちゃんが、前方を指差す。

確かに、影の様な物が見える。


「セイラム様っ!」


私の後ろを歩いているセイラム様を見る。


ニッコリと頷いてくれる。


やった~!!


自然と歩くスピードも上がる。

黒く見えていた影が、近付く度に緑に変わっていく。

私達はついに、オアシスに辿り着く事ができた。







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