第15話 男
セイラ様を突き飛ばしたのは、獣ではなく、ノア兄ちゃんだった。
ノア兄ちゃんとは、地球からセディオン星に来る時の宇宙船でお世話になったお兄ちゃん。
お兄ちゃんは、この星に着いた時、3才以上の10才だったので、居住区のドームに行って離ればなれになったきりになっていた…。
「もう、10年か…。懐かしいなぁ…。」
ノア兄ちゃんが、ささっと焚き火とココアを作ってくれて、それを3人で飲む。
「ノア兄ちゃんは、どうしてここに?」
「あぁ、俺?」
チラリとセイラ様の方を見る。
「俺は、居住区の方で特殊警官やってたんだ。ある日、カミラとかいうおばさんが現れて…。ドームから出る男女2人が目的地に着くまで、女を男から守って欲しい…って…。」
……?
色々と間違えてるような…。
「えっと、ノア兄ちゃん。男女2人組って間違ってるよぉ。女子2人組だし…、守る方はこちらのセイラ様…!」
隣にいるセイラ様の腕を掴む。
「それより、カミラという女は、いつ頃あんたのところに?」
「セイラさん…、ノアって呼んでくれ…。あの女が来たのは、1ヶ月くらい前かな…。なんせ、極秘任務になるっていう事で、1ヶ月あの女と準備してたんだ…。」
「ち…っ。あいつは、2人で出るって事、想定してたって事か!!」
いつもとは違う乱暴な言葉が、セイラ様から出る。
「こっちも聞きたい事がある。いいか?」
「うん。」
「お前らって、宮のドームから来た?」
「……。」
セイラ様と目を合わせる。
宮の事は、超トップシークレット…。
口外出来ない事になっている。
ただドームを出た今、それって何の効力もないような…。
私達の様子を察したノア兄ちゃんは、提案した。
「俺は、今から独り言を言う。合ってたら頷いてくれ…。」
私達は、黙って頷く。
「お前達は、宮のドームから来た。」
コクリ…。
「そして、セイラさんが、毎月俺達に神歌唄ってた神官…。さくらは、その従者って事か…。」
…コクリ…。
「神官は、通常女性がするものだが、訳あって、男のセイラさんがやっていた…。」
「違うって、ノア兄ちゃん!セイラ様は女性です!」
ほんとは、黙ってなきゃいけないところをつい、言葉にしてしまう。
「いやいやいや…。こいつどう見ても、男だろ…。」
「ちが…」
「その通りだ…。俺は男だ。セイラムだ…。よろしく…。」
セイラ様に、私の言葉をかき消される。
「やっぱりなぁ…。」
ノア兄ちゃんは、ふんふんと納得する。
「さくらにもさっきから伝えてるんだが、なかなか理解してもらえない…。」
と、私を見る。
「こういうのはさ、見せたら1番わかりやすいんだよ!セイラム!」
そう言って、セイラ様の前に立ったかと思うと、上着を掴みバッ、中のカッターもバッと開ける。
ギャァァァァァ!!
「ノア兄っ!なんて事をっ!」
慌てて、ノア兄ちゃんとセイラ様の間に入る。
「落ち着けって!さくら!よく見てみろ。
」
ノア兄ちゃんに言われ、恐る恐る振り向く。
はだけたところから見えるセイラ様の胸は、ペッタンだった。
しかも、ただのペッタンではなくけっこう引き締まった感じのペッタンなので、女性のペッタンとはまた違うように思えた。
ただ、やはり信じ難い。
なんせ、10年。
10年仕えてきたのだから…。
「セイラ様の胸がペッタンなのは、定期的にホルモンの薬を飲んでらしたので、そのせいでは…。」
「あぁ、あれは、逆に女性ホルモンの薬を飲んでたんだよ…。」
「え?初潮を遅らす薬ではなかったのですか?神官は、初潮が始まると力が弱まるので引退と聞いていたので、年頃になると飲むと聞いてたのですが…。」
「俺の場合は、逆。男らしくなり過ぎないように、女性ホルモンを飲んでたわけ…。」
「え?そんな…。そしたら、本当にセイラ様は、男…。」
「あっ、セイラムな…。」
ガーン。
その場で崩れる…。
「ま、さくらの事はとりあえずほっといて…、俺はカミラっていう女から、目的地までぶっちゃけ女の貞操を守れって言われてんの…。セイラムには悪いが、俺はそれを実行させてもらう…。」
「……。」
セイラ様は、黙ったまま。
「ただ、あの女は、何でそこにこだわるんだ?」
よくもまぁ、私の前でそんな会話できるよね…。
「…、神官の力、植物の声を聞いたり、幸せホルモンの音を出したりする力が、第二次成長で弱まるっていう事がわかってるからだろう。女子は分かりやすく、初潮が始まると次第に弱まってくるに対して、男の場合のデータがない…。念の為…といったところだろう…。」
セイラ様が答える。
「ふ〜ん。その念の為だけに、俺は借り出されて、砂漠のど真ん中に放り出されたってわけか…。」
「……。」
セイラ様は、黙りを決め込む。
「まぁ、俺としては、もう会えないって思ってたさくらに会えたし、その上、さくらの護衛って言うんだから、ラッキーだけどな…。」
ニッコリ私に笑いかける。
ふっと暗くなる。
見上げると、セイラ様が私の前に立ち、ノア兄ちゃんを睨んでる。
「まぁまぁ、別に深い意味無いよ…。ってまぁ、あるにはあるけど。まぁ、3人しかいないんだし?仲良くやろうぜ…。」
右手をセイラ様の前に差し出す。
ふい…っ。
横を向く。
ノア兄ちゃんの右手は行き場を失う。
「セイラ様。流石に、それは失礼では?」
ツーンとしたまま…。
「いいって、いいって。さくら…。それより、セイラ様じゃなくて、セイラムって呼んで欲しいんじゃないかな?彼は…。」
と言って、セイラ様…いえセイラム様の方を見る。
セイラム様もハッとした顔になって、私の方を見る。
「すみません…、セイ…ラ…ム…様…。」
やっぱり、何か違和感ある…。
「さ、様は、要らない…。」
ちょっと赤くなったセイラ…厶様が言う。
「流石に、セイラ様…セイラム様。あなたを呼び捨てには出来ません。」
10年仕えて来て、いきなり実は男で、呼び捨てにしろって無理っ!
「ま、そこは、徐々に様も取っていこうよ…。さくら…。」
ノア兄ちゃんに諭される。
「は、はぁ…。」
「急じゃなくてもいいからさ…。それが彼の望みな訳だし…。」
私の目線に合わせて、伝えてくれる。
「…わかり…ました。」
セイラム様が、いきなり私の手を引いて、私とノア兄ちゃんの間に入ってきた。
「さっきは、悪かった…。」
そう言って、ノア兄ちゃんに右手を差し出す。
「あ、あぁ…。そう、来なくっちゃ…。」
そう言って、笑いながらセイラム様の右手を握る。
辺りは、真夜中からうっすらと紅く染まり始めた。
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