第14話 番外編 セイラムの苦悩 ③

「限界ね…。」


さくらを自室に帰らせた後、カミラが言った。


「……。」


受け答えする変わりに、睨む。



俺がこの星にきたのは、生後10ヶ月くらいの時だったらしい。

赤ん坊だった俺は、生まれた星の記憶が当然ない。星の情報が入ったピアスもない。

赤ん坊の場合は、セディオン星人として育てられるからだ。

神官になったのは、2才の時…。

一声で4音出せる奴が俺以外誰も居なかった。

カミラは、2才の俺を女神官として祀りあげた。

男の俺が女として神官になる訳だから、色々とルールがあった。

○沐浴は、1人で。

○10才からは、女性ホンモンの薬を定期的に飲む。

○従者は付けない。カミラがする。

○好きな人を作らない。

○✕✕✕をしない。

など

まだ、何も知らない俺に色々強要した。

6才の時、俺は初めてカミラに逆らった。

「さくらを従者にしないなら、神官を辞める。」

と言って、自分の首にナイフを当てた。

そうやって、俺の要求に答えさせた。



「さくらさんを従者にする変わりの約束覚えてますか?」


「……。」


カミラに対しては、憎悪しかない。


「さくらさんに…。」


ガンッ。

円卓の椅子を蹴り飛ばす。


「辞めれば、いいんだろ?辞めれば…。」


「わかっているのなら、良いのです。次の神歌であなたは、引退です。」


「引退後、何をすればいいかわかってますね?」


「……。」


散々教わってきたから、わかっている。

しかし、答えない。


「さくらさんは、置いて行ってくださいよ。」


ダンっ!!

円卓を叩く。


「わかってる…。」


「それから、あなたの従者は別のものにさせます。」


「!!!」


睨む。


「約束を破ったあなたが、悪いんでしょう?」


右手の拳に力が入る。


「では、私はこれで…。」


そう言いながら、俺のベッドをシーツを剥がして持って行こうとする。


「まっ…」


ギロリと睨まれる。


「何か、不都合でも?」


「……、いや…。」


としか、言いようがなかった。

奴は、知っている…。


ドンッ!

「くそ…。」


壁を叩く。



「おはようございます。」


次の日の朝、見知らぬ子がやって来た。

カリンというらしい。

朝食を用意してくれたが、食べる気がしない。

少し食べ、下げてもらう。


さくら…。


ハンカチからさくらの髪紐を取り出し口元に当てる。

微かに金木犀の香りがする…。

そうだ…。


「カリン、ヘアクリーム、金木犀の香りのやつに変えて欲しいんだけど…。」


「は、はぁ…。」


3、4日後に、持ってきてくれた。


「こっちの方が質落ちるんですけど、いいんですか?」


「あっ、うん。それで、いい…。」


蓋を開ける。

ふわりと金木犀の香りが広がる。


うん。さくらと同じ…。

そばに居て欲しい…。

寂しい…。



さくらが俺の元から離れて、2週間程たったある夜。


ふと、窓の外から香った気がした。

それは、毎日毎日、焦がれていた匂い…。


「さくら…。」


慌てて、掃き出しの窓から外へ出る。

そこには、欲しかった背中があった。


「やっぱり…。」


間違えるはずがない。

聞くと、あまり食事を摂っていない俺を心配して、パンを焼いて持ってきてくれたという…。

パンを差し出すさくらが可愛い過ぎて、抱きついてしまう。

さくらの匂いが俺を幸福でいっぱいにする。

会えて良かった…。

引退する前に、ドームを出る前に会えて良かった…。

今はまだ、引退の事も知らないさくらは、俺の隣で笑ってる…。

出来れば、俺の中に閉じ込めておきたかったけど、連れては行けない…。

そう、心に決めた。




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