第14話 番外編 セイラムの苦悩 ③
「限界ね…。」
さくらを自室に帰らせた後、カミラが言った。
「……。」
受け答えする変わりに、睨む。
*
俺がこの星にきたのは、生後10ヶ月くらいの時だったらしい。
赤ん坊だった俺は、生まれた星の記憶が当然ない。星の情報が入ったピアスもない。
赤ん坊の場合は、セディオン星人として育てられるからだ。
神官になったのは、2才の時…。
一声で4音出せる奴が俺以外誰も居なかった。
カミラは、2才の俺を女神官として祀りあげた。
男の俺が女として神官になる訳だから、色々とルールがあった。
○沐浴は、1人で。
○10才からは、女性ホンモンの薬を定期的に飲む。
○従者は付けない。カミラがする。
○好きな人を作らない。
○✕✕✕をしない。
など
まだ、何も知らない俺に色々強要した。
6才の時、俺は初めてカミラに逆らった。
「さくらを従者にしないなら、神官を辞める。」
と言って、自分の首にナイフを当てた。
そうやって、俺の要求に答えさせた。
*
「さくらさんを従者にする変わりの約束覚えてますか?」
「……。」
カミラに対しては、憎悪しかない。
「さくらさんに…。」
ガンッ。
円卓の椅子を蹴り飛ばす。
「辞めれば、いいんだろ?辞めれば…。」
「わかっているのなら、良いのです。次の神歌であなたは、引退です。」
「引退後、何をすればいいかわかってますね?」
「……。」
散々教わってきたから、わかっている。
しかし、答えない。
「さくらさんは、置いて行ってくださいよ。」
ダンっ!!
円卓を叩く。
「わかってる…。」
「それから、あなたの従者は別のものにさせます。」
「!!!」
睨む。
「約束を破ったあなたが、悪いんでしょう?」
右手の拳に力が入る。
「では、私はこれで…。」
そう言いながら、俺のベッドをシーツを剥がして持って行こうとする。
「まっ…」
ギロリと睨まれる。
「何か、不都合でも?」
「……、いや…。」
としか、言いようがなかった。
奴は、知っている…。
ドンッ!
「くそ…。」
壁を叩く。
*
「おはようございます。」
次の日の朝、見知らぬ子がやって来た。
カリンというらしい。
朝食を用意してくれたが、食べる気がしない。
少し食べ、下げてもらう。
さくら…。
ハンカチからさくらの髪紐を取り出し口元に当てる。
微かに金木犀の香りがする…。
そうだ…。
「カリン、ヘアクリーム、金木犀の香りのやつに変えて欲しいんだけど…。」
「は、はぁ…。」
3、4日後に、持ってきてくれた。
「こっちの方が質落ちるんですけど、いいんですか?」
「あっ、うん。それで、いい…。」
蓋を開ける。
ふわりと金木犀の香りが広がる。
うん。さくらと同じ…。
そばに居て欲しい…。
寂しい…。
*
さくらが俺の元から離れて、2週間程たったある夜。
ふと、窓の外から香った気がした。
それは、毎日毎日、焦がれていた匂い…。
「さくら…。」
慌てて、掃き出しの窓から外へ出る。
そこには、欲しかった背中があった。
「やっぱり…。」
間違えるはずがない。
聞くと、あまり食事を摂っていない俺を心配して、パンを焼いて持ってきてくれたという…。
パンを差し出すさくらが可愛い過ぎて、抱きついてしまう。
さくらの匂いが俺を幸福でいっぱいにする。
会えて良かった…。
引退する前に、ドームを出る前に会えて良かった…。
今はまだ、引退の事も知らないさくらは、俺の隣で笑ってる…。
出来れば、俺の中に閉じ込めておきたかったけど、連れては行けない…。
そう、心に決めた。
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