第9話 決戦の日前編

「よし!」


鏡の自分に気合いを入れる。

カリンちゃんは、ポニーテールなので私もポニーテールに結ぶ。


白い布を頭から被り、セイラ様の部屋へ向かう。


「おはようございます。」


セイラ様に仕えていた時のように部屋に入る。


「え…っ。さくら?」


入るなり、セイラ様にバレる。


「どうして、わかったんですか?」


と言いながら、被ってた布を取る。


「いやいや、声がまんまだし…。って!さくら!その髪!!」


「カリンちゃんの髪型に合わせて、ポニーテールにしてみました。」


「ポニーテールって…。そこじゃない…。髪!短くなってるよね?切ったの?」


「カリンちゃんの髪がこれくらいだったので、合わせてみたんです。」


「合わせたって…。他の変装、色々雑いのに、そこだけ、こだわったね~」


「雑いって何ですかぁ?遠目で見て、バレなきゃいいんです。どうせ、カミラ先生は、チビさん見てなきゃだし…。」


「セイラさん、今日の事だけど…。」


突然、カミラ先生が部屋に入って来た。


やばっ!


慌てて、掃き出しの窓から外に出る。


「ああ、カミラ先生…。」


セイラ様も慌ててカミラ先生と窓の間に立って、私が見えないようにする。


「今日、ソフィアさんと一緒に唄う事になってるから、よろしくね。」


「分かってます。」


「カリンさんも、よろしくね…。」


セイラ様越しの私の背中に、声を掛ける。

私は、カミラ先生に背中を見せたまま、頷いた。

何事もなかったかのように、カミラ先生はその場を去った。


と、とりあえず、誤魔化し成功した?…。


「髪型、カリンちゃんと同じにしておいて正解でし…。」


後ろにいるセイラ様の指先が、私のうなじを撫でていく。

ピクッ。

背中が小さく反る。

指先が肩まできた時、両肩を抱きしめられる。


「さくら…。お願いだから、いつもの髪型にしてくれ…。」


「え…。どうしてですか?」


抱き締められた腕が緩められたので、振り向こうとしたら、セイラ様は私の耳の後ろに唇を当ててきた…。

ビクッ。


「今日は、最後の神歌…。ちゃんとこれに集中したい…。」


セイラ様が口を動かす度、唇の感覚や吐息が耳に響く。

ピクピクッ。

体全体が小さく、波打つ。

胸が熱くなる。

何かがおかしい…。


「わ、わかりました…。」


素直に聞く事にする。

髪紐を解き、手櫛で梳かしていると、セイラ様が櫛を貸してくれる。


「ありがとうございます。」


櫛で髪を梳かし、2つに分け、予備に持っていた髪紐を出して、束ねていく。


「よし!出来た!」


いつもなら、束ねる時に髪を輪っかにして束ねていたけど、短くなって、そのまま束ねただけで済むので、めちゃ楽になった。


「セイラ様、櫛、ありがとうございます。」


そう言って櫛を片付ける。


「はあぁぁぁ。」


セイラ様が深くため息をつく。


「どうしたのですか?」


「ほんと、短くなったね…。髪…。」


「…はぁ…。私の髪ですよ?」


なんか、凹んでる?


「確かにさくらの髪なんだけど、…私のものでも…。あぁ!何でもない…!」


何か、ボソボソ言っていたが何も聞こえない。

そういえば、カリンちゃん、セイラ様ショック受けるんじゃあないって言うてたっけ…。

なんか、カリンちゃんの言う通りになったなぁ…。

あの子って、何気に凄い。

1ヶ月足らずで、セイラ様の性格見抜いてるっぽいし。

あの孤児院をまわしてたんだから…、相当仕事出来るよね…。


「さくら…?どうしたの?」


ボーっとしてた私に、声を掛けてくれた。


「あっ、すみません…。遅くなっちゃいましたが、朝食の準備しますね。」


ささっと、セイラ様の円卓に朝食をセッティングする。

セイラ様は、それをスープを1口、それからパン2口、コーヒー、ベーコンエッグ、そして、スープ…と食していく。

あれ…?

サラダがあるんですけど…?


「あ〜美味しかった〜。ごちそうさまぁ〜。」


と言って席を立とうとするセイラ様の肩を抑える。


「サラダ、残ってますが…?」


「食べたくないっ!」


「食べたくないじゃあありません。食べましょう。」


「嫌だ!」


「嫌だじゃあありません。栄養のバランスを考えて、作ってくれたものですよ?」


「サラダなんか、野菜洗ってちぎっただけじゃないか…。要らないっ!」


「食べましょう!」


「嫌だ!どうしてもといつなら…。」


「どうしてもというなら…?」


「食べさせて…。」


!!!


「どうして、そうなるんですかっ!」


「じゃあ、食べないっ!下げて…。」


どういう事?

カリンちゃんの時からそういうの、無いって聞いてたのに…。

なんか、退化した?


「どうしてそういう事、言うんですか?カリンちゃんには、そういう事言ってないですよね?私、知ってるんですよっ!」


「カリンの時は、食欲すらなくてほとんど食べてなかったんですぅ!こんなに食べたの久々なんですぅっ!」


そういえば、あまり食べないって言ってた…。


「さくらが食べさせてくれたら、そのサラダも残す事なく、全部食べられそうだけど、そうじゃないなら、食べないだけですぅ!無駄になるかならないかは、さくら次第ですぅっ!」


と言って、プイッと横を向く。


「…!!」


空いた口が塞がらない…。

とは、この事だっ!


「…、わ、わかりました…。」


観念して、セイラ様の斜め横の椅子に座り、フォークを持つ。

こうやって、してしまう私が悪いんだよね…。



カチャカチャ…。

おかげ様で全て完食…。

食器を台車に載せていく。


「あのさぁ、さくら…。どうして、今日朝から来るなら、そう言っといてくれなかったの?」


「カリンちゃんが協力してくれるとも限らなかったし、急に決まったので…。何か?不都合ありましたか?」


「不都合?大アリだよ!来るのが、さくらってわかってたら、寝てたのに〜。めっちゃ損した〜。」


!!

なぬ?


「セイラ様…、どういう事ですか?」


バキバキ

右、左と指を鳴らしながら、セイラ様に近づく…。


「まさか、セイラ様…。人によって、態度変えたりしてませんよねぇ?」


セイラ様の胸ぐらを掴む。


「ま!まさか…、そんなわけ…。」


と言いながら、そっと私の手を離し、距離を取る。


「私!カリンちゃんにセイラ様に仕えている時、何してたんですかって言われたんですからね!」


「……。」


「私だって、私なりに…。」


目が曇ってくる。

泣くもんかっ!

涙目になってしまった顔を見られたくないので、下を向く。


「ごめん、さくら…。私が悪かった…。」


私の両肩に手を置く…。


「さくらが帰ってきたのが嬉しくて…。つい…。許して…。」


キッと、

涙目になったまま上目遣いで睨む。


「許しません。」


バババッ

と、セイラ様の顔が赤くなったように見えた。

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