第3話 大切なもの
「おはようございます。セイラ様。」
いつものように一声かけてから、お部屋に入る。
「セイラ様…。起きてらしたんですか?」
いつもなら私が起こしにくるまで爆睡のセイラ様が、ベッドの上で片方の足だけ三角に立て、そこにおでこ乗せている状態だった。
「あ、あぁ。さくら…。おはよ…。」
顔だけこちらに向ける。
「だ、大丈夫ですか?」
セイラ様の元に駆け寄る。
一晩のうちに、随分とやつれている。
肌に覇気がないし、瞳もいつもの潤いがない…。何か、若干凹んでる?
これは…。
「完徹したんですか?」
「完徹したくてしたんじゃない。…眠れなかったんだ…。」
力無くボヤく。
「眠れなかったって…。何か、コーヒーとか飲みましたか?」
と言いながら、昨日のセイラ様の摂取されたものを思い浮かべる。
……。
そんな睡眠を妨げるようなものを口にされていないように思う。
「…、いや…違う…。」
両膝を抱え込み、その膝に顔を埋める。
「とりあえず、朝食しますか?暖かいもの食べたら、また気分も変わるかも知れません。」
セイラ様のベッドに軽く腰掛け、背中をさする。
ピクリとセイラ様の体が動く。
「…うん…。」
朝食準備の許可をもらう。
「セイラ様、朝食の準備出来ましたよ。どうぞ、こちらに…。」
朝食の載ったテーブルに促す。
「…うん…。」
のろのろとテーブルにつき、どっかりと椅子に座る。
「はぁぁぁ…。」
大きなため息をつくだけで、朝食に手を付ける様子がない。
「ほんとに、どうしたんですか?」
今日のセイラ様は、今までに無いくらい元気がない。
「う…う〜ん。」
「あっ、そうそう。セイラ様。私の髪紐知りませんか?」
「えっ、さくらの?」
「そうです。昨日、セイラ様がほどかれた髪紐です。今日は別の物をしてますが…。」
「えっ、あっ、あ〜…。し、知らないなぁ…。」
セイラ様の顔が少し赤くなったように思う。
「ま、また、探しておくよ…。」
肘で顔をかくしながら、言う。
「いえ…。セイラ様に捜して頂く訳には、参りません。今、少し探させてもらっていいでしょうか?」
「もちろん、構わないよ…。ただ、無いんじゃ…。いや…、探してもらっていいよ。」
確かにセイラ様の言う通り、無いかも…。
整理整頓されたこの部屋にそんな落し物があるような感じではない。
私は、植木鉢のところとかゴミ箱とか見てみる。
やっぱ、無いなぁ〜。
昨日、壁ドンされた壁の前に立つ。
この辺りに落ちてると思ったんだけど…。
しゃがみ込む。
「セイラさんっ!何て顔してるんですか!!」
聞き覚えのある声がする。
この宮でセイラ様をさん付け出来るのは…、
「カミラ先生。おは…。」
慌てて立ち上がり、声のする方へ挨拶しようと思ったら、すぐ後ろに気配が…。
振り向くと、
「セイラ様…?」
すぐ後ろに、セイラ様が居た。
「セイラ様…、朝食に何か不都合でも…。」
顔を背けて、
「いや…。何でもない…。」
朝食の席に戻る。
「さくらさん!あなた主人の朝食の時間に何してるんですか!!部屋中ごそごそ歩き回って!失礼ですよ!」
ゔっ…。
その通りでございます。
「…すみません…。」
「私に謝るのはおかしいでしょ!」
「はい…。」
セイラ様の隣まで行き、深々と頭を下げる。
「セイラ様、申し訳ございませんでした。」
「いや…。私がOKしたものだし…。さくらは、悪くないよ。」
「セイラさん、あなたもあなたです。あなはさくらさんに甘すぎます。その上、食事中に立ち歩くなんて、もっての他ですっ!」
きょ、今日は、カミラ節、炸裂してる…。
「さくらさん、あなたは自室に下がりなさい。」
え…っ。
カミラ先生の顔を見る。
いつになく、真剣な顔でこちらを見ている。
「ど、どうしてですか?身支度もまだ整えておりません。」
「他の者にさせます。」
「え…っ?」
「あなたにセイラさんを任せられません。」
頭を太い木の幹で殴られたようだ…。
ど、どういう事…。
「カミラ先生!さくらを下げるとは、どういう事ですか!私はさくら以外…」
「あなたがっ!…あなたが1番、お解りでしょう?」
カミラ先生は、セイラ様をじっと見る。
「とにかく、さくらさんあなたは自室に戻りなさい。私はセイラさんに話があります。」
「でも!」
「でも、ではありません。早く自室に戻りなさいっ!」
「……。」
為す術もなく、一礼してセイラ様の部屋を後にした。
*
カタン…。
「く…っ…。」
自室のドアを閉めた途端、頬をつたうものが止めどなく流れる。
セイラ様の部屋を出る時のセイラ様の心配そうなお顔が忘れられない…。
主人にあんな顔させるなんて…、従者失格だ。
どうしよう…。
何処からやってくるのか、私の中に不安がどんどん入ってくる。
どうしたらいいの…?
どれくらい泣いたのだろう。
あれから、どれくらい時間が立ったのだろう。
ベッドに突っ伏していた顔を上げる。
「落ち着きましたか?」
すぐ近くで声がする。
「カミラ先生…。」
私のすぐ隣でベッドに腰掛けていた。
いつから居たのだろう。
全然気付かなかった。
「いつから、こちらに…?」
「半時程前からかしら…。」
優しく私に笑いかける。
「カミラ先生…。私…、私をセイラ様の元に戻して下さい。」
床に手を付き、深く頭を下げる。
「あなたの気持ちも分からなくは無いけど、出来ないわ。」
「どうしてでしょうか?」
カミラ先生に詰め寄る。
「あなたとセイラさん…。少し、距離を取った方がいいわ。」
「何故なん…」
「あなたには、孤児院を手伝って欲しいの…。」
真剣な目で見てくる。
「孤児院って宮の隣にある、私も半年程お世話になったところの?」
私達の言う孤児院は、色んな星からやって来た子供達が、とりあえず保護される場所。私自身も6ヶ月程お世話になった。
基本、男の子は3才、女の子は7才まで。それ以降は、宮のドームから出て、居住区ドームに入り、一般人として暮らす。
女の子の滞在期間が長いのは、神官候補、従者、孤児院の世話係の育成、選別する為。
それらの人事の責任者がカミラ先生。
宮自体、男性禁止なので、宮のドームにいる男は、3才までの幼児のみとなる。
「そう、とりあえず次の神歌が済む時までの1ヶ月。1ヶ月、孤児院のスタッフとして、私の手伝いをして欲しいの。」
たった半年だったけど、とてもお世話になったところ。
「…わかりました。1ヶ月…。1ヶ月頑張ってみます。セイラ様のところには誰が…?」
「カリンさんに依頼したわ。」
「カリンちゃん…、ですか…。」
私と入れ替わりで孤児院に入って来た子だ。確か、今13才くらいかな…。彼女も何らかの候補でこのドームに残っている。人事はカミラ先生の頭の中にしか無いので、何とも言えないけど。
私と同じ亜麻色の髪の元気でハキハキした女の子…。
元気のないセイラ様の支えになってくれるかもしれない…。
「わかりました。頑張ってみます。」
カミラ先生に言うというより、自分に言い聞かせた。
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