第14話 一条の光
ガラマーン軍反攻作戦の会議から数日が経過し、アナスターシャ・グイーンとブライトン卿は、前線の砦に向け秘かに領都から出発していた。
ここ領都カラムンドの城内の宴の間では、カラミーア伯を中心に夕食会が開かれていた。夕食会と言っても派手な料理などはなく、宴と言うには、質素すぎるものだ。
参加者も、カラミーア伯、サンタモニカ、スフィーティアを含め、5、6人程度だ。
「済まぬな、スフィーティア殿。毎日ドラゴンの警戒のため、王都周辺を巡回してもらっているようで」
カラミーア伯が、頭を下げる。
「いえ、新しく配賦されたシュ、いえ、乗り物の足慣らしもしたいので」
「また、もっと豪華に食事を振る舞いところだが、今は戦時故、些細な食事で済まぬ」
「そんなことは、ありません。この赤いスープはとても美味しい」
そう言って、スフィーティアは、スプーンですくって一口啜った。
「それは、何よりだ」
一呼吸おいて、カラミーア伯がサンタモニカに尋ねた。
「ところで、モニカよ。わしは前線に行かなくてよいのか?」
「はい、領都にいていただかなくてはなりません」
モニカは、きっぱりと言う。
「そうは言っても、わしが行った方が兵の士気も鼓舞できよう」
「必要ありません」
モニカを首を横に振る。
「むしろ、今回の作戦では邪魔になります」
「邪魔か・・」
カラミーア伯が、ポツリと漏らした。
「あ、カポーテ様。そういう意味で言ったのではありませんよ」
モニカが慌てて否定し、一呼吸置いてから話し始めた。
「あちらは、ブライトン卿とアナスターシャに任せておけば、十分なのです。わざわざカポーテ様が行かなくても吉報がもたらされるでしょう。一方で、領都のドラゴンの脅威は高まっています。カポーテ様不在時にドラゴンに襲撃されては、住民は怯えましょう。ここは、是非領都にいていただかなくてはなりません」
「うむ。モニカの言う通りだな」
カラミーア伯の立ち直りは早いようだ。
そこに、連絡兵が飛び込んできた。
「た、大変です。ドラゴンが現れました」
「な、なんだと!どこに現れたのだ?」
カラミーア伯が衛兵に食いつく。
「領都より南西のリザブ村です。警戒していた衛兵隊と交戦中とのことですが」
「リザブ村ですって。あの周辺にも、部下を派遣していたはず。なぜ連絡がないの・・」
モニカが、動揺の表情を見せる。
「気付かれたのではないのか?」
カラミーア伯が、顎髭をしごく。
「そうですね。悪い知らせです。こんな領都に近い所まで、ドラゴンに侵入されるなんて」
モニカは、部下の安否を気遣ったが、口にはしない。
「・・・・・」
スフィーティアは考える風であったが、口を開いた。
「すぐに向かいましょう。ここから遠くないのは、かえって好都合」
スフィーティアが席を立つ。
「頼みます。スフィーティア、気を付けて」
「任せて欲しい」
スフィーティアは一礼して、そう言い残すと、部屋を飛び出した。
「モニカよ。わしらも警戒態勢じゃ」
カラミーア伯が席を立つ。
「はい。領都の守りを堅めます」
モニカも席を立つと、カラミーア伯に続いて部屋を後にした。
(ドラゴンが現れた村は、あの少女と出会った村だ。間違いない)
スフィーティアには、エリーシア・アシュレイの姿が浮かんだ。
1階の宴の間を出ると、スフィーティアは謁見の間を抜け2階に駆け上がり、城壁に繋がる扉を出る。城の尖塔の一番てっぺんまで飛び上がった。既に日が落ち、闇夜だ。南西を遠望すると、遠くに赤く火の手が上がっているのが見て取れた。
(間に合うのか。あの少女は無事だろうか)
スフィーティアは、歯噛みしつつ、呟く。
「使いたくはなかったが、時間がない」
スフィーティアは、目を閉じた。一呼吸して、右手で胸の青い
「
そう念じると、
光り輝く白銀の鎧、青いスカート、白銀のブーツ、そして眩く光る頭部のティアラ。神々しいその姿は、天から舞い降りた天使のようだ。
スフィーティアは、尖塔から勢いよくジャンプすると、鎧の背から、黄金色に輝く大きな翼が広がった。翼を一羽ばたきさせると、上空高く舞い上がる。そして、一条の光となって南西の闇夜にパッと走って消えた。
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