第13話 悲しい別れ
ここは、領都カラムンドからそう遠くない小さな村。村のゲートに『リザブ・ヴィレッジ』という看板が見える。アシュレイ一家が、村を出るため荷物をまとめていた。
「お父さん、どうして急に村を出るの?私、お友達と別れるの嫌だよ」
少女が、灰色の大きな円らな瞳を潤ませながら訴える。
エゴンは、悲しそうな表情の娘の頭に手を当て、言った。
「いいか、エリ。お前は、この村のお友達が大切だよね?」
エリと呼ばれたその少女は、コクっと頷いた。
エリーシア・アシュレイ。まだ8歳で、銀髪の長い髪に透き通るような色白の肌の気品漂う美しい少女だ。再びの登場(第6話参照)だが、この物語は、彼女を中心に回っていくことになる。
「この村の人たちが、ドラゴンに襲われ、苦しむ姿を見たいかい?」
「え?」
「ドラゴンが村や町を襲っている。次に狙われるのはこの村かもしれないのだ。ドラゴンは探しているんだよ。私たちを」
エゴンは、『お前』をとは言わなかった。エリーシアは、何を言われているのかわからなかった。ドラゴンという大きな生き物がいることは、知っていたが、それが襲ってくる?それも自分たちを探しているとは、どういうことなのか?
「お父さん、何を言っているかわからないよ」
「エリ、お前に話すのは、もう少しお前が大きくなってからと思っていたが、お前の生まれについて話しておくのは、今なのかもしれない」
エゴンは、腰降ろして、エリーシアを見つめる。
「え・・、わたしの生まれ?」
「そうだよ。いいかい。よく聞くんだ。決してガッカリしたり、落ち込んだりしないでおくれ」
エゴンは、エリーシアの両肩を持ち、しっかりした口調で言った。
「お前は、エレノアと私の実の子ではない。お前はさるお方から託された子なのだ」
「え・・」
エリーシアはあまりのことに言葉を失った。自分がエゴン達の子ではない?
確かに二人には髪の色や目の色など似ているところが少ないとは感じていたが、エゴン達の子でないなら、自分は誰なのか、と疑問が頭の中に沸き起こった。エリーシアの顔は真っ青になった。
それを見て、エゴンはエリーシアを軽くゆする。
「エリ、しっかりおし!お前が、私たちの実の子でなくても私とエレノアはお前を実の子だと思って育てた。お前が生まれた直後から、私たちが面倒を見てきたのだから。血のつながりがなくても、お前は私たちの子だよ」
そういうと、エゴンはエリーシアを抱きしめる。エリーシアの眼からは涙がとめどなく流れ落ちていく。
(そうだ。血のつながりがなくても、お父さんは私を誰よりも愛してくれたもの。お父さんは何か大事なことを伝えようとしているんだ)
エゴンは、娘が落ち着いたのを確認して、エリーシアの顔をしっかり見て口を再び開いた。
「エリ、お前は・・」
その時だった。大きな轟音が外で響いたのは・・。突然村の中心辺りに、空から何か大きなものが落ちてきて、ドーンという音が響くと、多くの建物が崩れ落ち、火災が発生した。また衝撃で、エゴンの家を大きく揺らし、窓ガラスが割れて落ちたてきた。エゴンは娘を守ろうと、エリーシアの上に覆いかぶさった。
「く、遅かったか・・。エレノア!無事か?」
「は、はい」
驚いた表情のエレノアが奥の部屋から出てきた。
「ドラゴンがやってきた。遅かったようだ。こうなったら、私は村を守るためにドラゴンと戦う。お前は、エリを連れてすぐに村を出るんだ」
「あなた・・」
エレノアの眼から涙が落ちた。エゴンは、妻を抱き寄せるとキスをした。二人は恐らくこれが最後となることを予感した。
「さあ、エリを連れて裏口から逃げるんだ。急げ!」
エゴンは、エリーシアの前に跪き、娘を抱きしめて言った。
「エリ、お前は私の大事な娘だ。さっきの話はお母さんに聞きなさい。大事な事だから。愛しているよ。お父さんとはここでお別れだ」
「嫌だよ!お父さん!」
エリーシアの眼からは涙が止めどなく溢れる。
「さあ、エリ。行くわよ」
エレノアは、父親と離れたがらないエリーシアの手を取った。
「では、あなた。ご武運をお祈りしています」
「ああ、エリーシアを頼んだぞ」
エレノアは、エリーシアを連れ、裏口から轟音の響く外へ出て行った。
「お父さん!お父さーん!」
エゴンには、エリーシアの叫び声が、なおも聞こえていた。
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