第5話 報酬

 スフィーティアは、カラミーア伯から領都カラムンドへの同行の依頼を受けた。ドラゴンへの対処について協議するためだ。しかし、スフィーティアは、同行の申し出は断り、領都には後ほど伺うことを約した。カラミーア伯は、一部の部隊のみ引き連れて、領都カラムンドに帰還して行った。残りの兵団は信頼の厚いミスト将軍に任せ、ガラマーン軍の動きに備えさせた。そして、軍師サンタモニカ・クローゼがこの時講じた策がガラマーン軍を驚かせることになる。

 一方のスフィーティアは、別行動を取り、シュライダーでカラムンドを目指すこととした。剣聖団本部への報告と別のドラゴンの痕跡を確認するためである。


 カラミーア伯等と別れたスフィーティアは、カラミーア領をシュライダーで移動していた。時刻はすっかり日が落ちていて月明かりと星々が瞬いている。特に明かりが無くても移動には困らないほどだ。

 カラミーアは、アマルフィ王国西方に位置し、峻厳な山岳は異民族の侵攻を防ぐ天然の要害となっている。領内の平地は盆地となっており空気は乾燥し、ブドウの生育に適しており葡萄畑が多い。カラミーアのワインは有名で王国内だけでなく、他国にも輸出されているほどだ。よって街道もよく整備されている。そしてなだらかな丘陵地には幾つもの森林が点在していた。

 林道に入ると、スフィーティアはシュライダーを静かに止めた。月明かりも遮られ、陰は真っ暗だ。当然人気はない。

 スフィーティアは、胸のポケットから先ほどドラゴンから取り出した緑色に光る『宝石』を取り出した。これは、『竜の心臓の欠片』。ドラゴンの心臓で生成される結晶体だ。ドラゴンのパワーの源がこの欠片と言われる。剣聖には、皆この『竜の心臓の欠片』を加工したものが胸の中心に埋め込まれている。彼らの力の源泉がここにある。スフィーティアの胸にも、青い石が埋め込まれている。但し、使用とともに輝きを失っていく。この石が輝きを無くした時どうなるかを、スフィーティアはよく承知していた。

 取り出した緑色の欠片は、ドラゴンが小物だったため、あまり大きくも無いし、輝きも強くない。この欠片は、剣聖に埋め込まれる以外にも様々に剣聖団では使用されている。なにせエネルギーの塊みたいなものだからだ。一例をあげれば、シュライダーの動力源にもなっている。

 スフィーティアはシュライダーのエアパネルを表示させると、緑色の欠片をそこに重ねた。スフィーティアが手を離すと欠片は宙に浮き、数回回転すると、次第に消えて行った。


「任務完了、と」

 少し間を置いて、エアパネルに文字が浮かんできた。それと同時にスフィーティアの右耳のイヤリングが淡く光り、音声を発した。

『任務ご苦労』

 音声と言ってもそれは、周りには聞こえない。スフィーティアだけに聞こえるものだ。聞こえてきた声は、子供のような澄んだ声だ。

『しかし、』

 子供のような声の主は、少し間を置いた。

『やり過ぎだ。いつもながらスフィーティア・エリス・クライ、君は人間に干渉しすぎだ!』

「な、なんのことでしょうか?」

 スフィーティアは、ギクッとした。

『とぼけるのか。そうか、ではこれを見るがいい』

 エアパネルに、映像が映し出される。それは、シュライダーがガラマーン軍に突っ込み、ガラマーン兵を追い立てているものだった。

「あ!」

 さらに、スフィーティアがドラゴンを振り回して、ガラマーン兵を払いのけている映像もシュライダーは記録していた。

「げ!」

 これは言い訳できない。

『これは、どういうことか?』

「あ、そのですね。ドラゴンが私の手から逃げようとして、私が振り回されてしまったというか」

『馬鹿者、そんな言い訳が通用するか!』

 エアパネルの文字でも、怒気が表現されている。

「ううっ。ですよね~」

『スフィーティア、君も知っているだろう。我々剣聖団が中立という立場を取っているから異民族も含めて、ドラゴン討伐の依頼が来るのだ』

「しかし、あのドラゴンは、ガラマーンを援護しているように見えました。他のカラミーアに現れたドラゴンも、アマルフィ以外の国と関係が無いとも言えないのでは?」

 スフィーティアは考えていたことを口にする。

『それは、こちらでも調査中だ。とにかく、やりすぎるな。よいな』

「気を付けます」

 スフィーティアは渋々返事をする。

『そう気を付けることだ。君のそのシュライダー、かなりガタが来ている。いつ故障してもおかしくない。大体シュライダーは移動手段であって、戦闘用ではないのだぞ。もっと丁寧に扱うことだ』

「大丈夫ですよ」

 スフィーティアは、そっぽを向く。

『そう言って、いくつもおしゃかにしていると思うが。次壊したら、報酬から引くから注意することだ』

「そ、それは、あんまりです。城の修理も必要なんですから!」

 スフィーティアは、古城の崩れかけた壁を思い浮かべていた。

『では、もっと働くといいぞ(笑)』

「鬼!」

 つい本音が漏れてしまった。

『はっはっはっは。良い言葉だ』


「もういいですよ。次の指令があるのでは?」

『うむ、知ってのとおりアマルフィ王国の各地でドラゴンが出現しており、アマルフィ王国からの要請を受け、君をカラミーアに派遣した。スフィーティア、君は引き続きカラミーア領内のドラゴンの情報を集め、見つけ次第排除すること。君をカラミーアに派遣した意味を忘れるな。私はが現れるとしたら、カラミーアであると考えている』

 声の主は、『奴』という言葉に力をこめた。

「はい」

 スフィーティアの表情が真剣なものに変わっていた。

『それと、アマルフィ本国には、アレクセイ・スミナロフを送った。その他アマルフィ王国各地に剣聖を派遣している。その指揮をアレクセイに一任している。スフィーティア、君は別働だが、アレクセイとも協力するように』

「必要ないですよ。この地のドラゴンは私だけで対応できますから」

 スフィーティアは、少しイラっとしたようだ。

『君は、アレクセイのことになるとムキになるな』

「嫌いなだけです。ああいうチャラいのが。それに余計なお節介を焼いて来る」

『ふふふ、まあ良い。以上だ。良い報告を期待している。竜滅を果たさんことを』

「いざ竜滅を果たさん」


(※竜滅云々は、剣聖団の枕詞みたいなもの)


 エアパネルから、全てのログが消え、数字が浮かび上がった。どうやら、今回のドラゴン討伐の報酬金額のようだ。見ると、マイナスされている。1万リベリが5千リベリに!

「え?待って、冗談でしょ!迷惑料って何?それも報酬の半額もマイナスされてるじゃん!」

 スフィーティアは、ガックリと肩を落とした。

「もう、レオナルドのバカ~~~~~~~~~~~!」

 スフィーティアは、天に向かって叫んでしまう。自然と可愛くなるスフィーティアであった。


(※レオナルドは、剣聖団本部の軍師リニアルで偉い人。そのうち顔も出てくるでしょう)

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