第4話 戦の痕
スフィーティア・エリス・クライは、死んだエメラルド・ドラゴンの胸の上に跨り、心臓の辺りに剣を入れ抉り、動かなくなった『心臓』を取り出そうとしていた。そんな作業をしていれば、ドラゴンの返り血で汚れそうだが、不思議と汚れは少ない。
その横をカラミーア軍が、ガラマーン軍追撃のため通り過ぎて行く。
「ありがとうございます。カラミーアは救われました」
いつの間にか傍まで来ていたサンタモニカが下からスフィーティアに声をかけた。
「あ、ちょっと待ってくれ。もう終わる」
スフィーティアが、ドラゴンの『心臓』(正確にはドラゴンの大きな心臓の一部分を指す)を取り出した。するとそれは、瞬く内に小さな宝石のような欠片に変化した。エメラルドのような宝石に見えるが、自ら輝いているようだ。スフィーティアはドラゴンの心臓の欠片をしまうと、ドラゴンから降りて来た。
「礼を言うには及ばない。私は剣聖団本部の指令で動いているだけだ」
「ドラゴンを退治してくれたことではありません」
サンタモニカが、スフィーティアを正視する。
「うん?」
「ドラゴンの出現により撤退したわが軍を助けてくれただけではなく、優勢であったガラマーン軍の気勢を削いでくれました」
「それは違う。私は
スフィーティアはバツが悪そうにサンタモニカから視線を逸らし頬を掻く。
「わかりました。そうしておきましょう」
サンタモニカはニコリと頷いた。
サンタモニカは、スフィーティアの意図を理解していた。剣聖は、その力の強大さ故に、
「名乗るのが遅れました。私は、カラミーア伯に仕える魔導士のサンタモニカ・クローゼです。剣聖殿、よろしくお願いいたします」
サンタモニカは、お辞儀をする。
「私は、スフィーティア・エリス・クライ。アマルフィ王国の要請でこの地のドラゴンを狩るよう剣聖団本部より指令を受けた。よろしくお願いする。と、同時に協力を頼む。まだ、この地のドラゴンは消えたわけではない」
「わかりました」
二人は固く握手を交わす。
(この女性が、噂に聞く『美の剣聖スフィーティア』。数少ない女性剣聖の1人で、実力は剣聖団随一と聞く。そしてこの美貌。噂以上だわ・・)
手を握ったまま、ジーッと顔を見られているのに気付き、スフィーティアが言った。
「クローゼ殿、何か私の顔についているか?」
「あ、いえ。私のことはモニカと呼んでください」
モニカは顔を赤らめて、手を離した。
「では、私のこともスフィーティアでいい。モニカ」
「ふふ、ふふふふ」
二人から笑いが零れた。
そこに、カラミーア伯が前方より馬を飛ばしてやって来た。
「やったぞ。モニカ。ガラマーンは、ボンまで逃げて行きおった。テンプル騎士団のブライトン卿も怪我を負っているが、あのドラゴンの攻撃から生きておった。全く不死身の男よのう」
「それは良かったです。しかし、こちらの被害も大きいです。兵も疲れていましょう。深追いは禁物です。一部を残し、ボンの近くに陣を敷きましょう。ここは時を待つのが得策かと」
「うむ、そうだな」
カラミーア伯は馬から降りると、スフィーティアの前で頭を下げた。
「剣聖殿、この度の戦、貴殿に助けられた。礼を言おう。わしは、この地をお預かる領主カポーテ・ド・カラミーアだ。名を伺いたい」
「スフィーティア・エリス・クライです、カラミーア伯爵。私は、貴軍を助けたわけではありません。そう見えたのであれば、貴軍がドラゴンによる被害を受けたのと同様ガラマーンもドラゴンによって被害を受けたのでしょう」
「そうか、ではそうしておこう」
ニカッと伯爵が笑う。
「しかし、貴殿が、スフィーティア殿か。噂には聞いていたが、聞きしに勝る美貌よのう」
カラミーア伯が顎髭をしごいたが、その顔は緩んていた。
「伯爵!顔が緩んでますよ。変なこと考えてないでしょうね?」
「な、何だ?変な事とは?」
図星だったようで、カラミーア伯慌てていた。
(一先ず、ここでの戦闘は終わったが・・)
スフィーティアは、暗くなり始めた空を見上げた。
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