001「大曲ななみ」
「せんぱいせんぱい」
「なんだ
「せんぱいの将来の夢って何だったっすか?」
「……社会人になってから聞かれると途端に切ないなその質問。急になんだよ」
「いえ、あまりにも暇すぎてちょっと気になったっす。どんな夢を持った人間が、どう落ちぶれたらこんな職場に流れ着くのかなって」
「落ちぶれるって……まあ否定はしないけど」
「で、何かあるっすか? 将来の夢」
「……むしろ、大した夢も持たずにズルズル生きて来たからこんな風になってしまったのかもしれないな」
「あらら、それは良くないっすね。夢を見るのに遅いってことはないっすよ! 夢を見続けて頑張ってる姿に、女子はときめくものっす!」
「そんなもんか……じゃあ、そこまで言うお前の見る夢はなんだ」
「プリキュアっす!」
「……早く目を覚ませ」
僕の後輩、「
顔立ちはそれなりに整ってはいて、黙っていれば美人と言えなくもない。しかし、思いついたことを考え無しに喋るため、黙っている時間が極端に短く、そのポテンシャルが生かされたことは今のところない。
「ところでせんぱい、ずっと気になってたことがあるっすけど」
「……なんだよ」
「せんぱい、なんでずっと眼帯なんてつけてるっすか? 初めて会った時からつけてたっすけど」
「これまた突然だな」
そんな僕のランドマークともいえるような眼帯について、なぜ出会ってから半年以上たった今になって聞くのかという疑問が浮かぶが、
「いや、何となく気になったっす。もしかしてオシャレっすか?」
「オシャレで眼帯なんか付けないだろ……」
「じゃあ、何かのビョーキっすか?」
「……」
少し答えに窮する。これだけ目立つ位置につけておいて恐縮なのだが、僕にとって眼帯の原因は、あまり触れられたくない部分だった。若気の至りというか、自業自得というか……。何にせよ、説明するのが難しく、説明したところで理解されることはないような話である。なので、この手の質問はいつも適当にはぐらかすことにしている。
「……まあ、病気っちゃ病気だな」
「大変っすね。原因とかあるっすか?」
「……この世の摂理に反したから、かな」
「あ! そーいうビョーキだったすね! 了解っす!」
自分でもどうかと思うほど雑なはぐらかし方だったが、
「というかな、
「そんな! せんぱい冷たいっす!! あたしとせんぱいの間には上下関係を超えた強い絆があるはずっす! 同じ釜の飯を食った仲じゃないっすか!」
「同じ釜? 身に覚えがないけど……」
「この前一緒にラーメン食べに行ったじゃないっすか!」
「……ラーメン屋の電気ジャーはノーカウントだろ」
あんなもん「同じ釜」扱いしてたら街中の連中と絆が生まれてしまう。がんじがらめだ。
「別に僕相手は今更どうでもいいけどな、社長とかお客さんにはやめろよ」
「え~。なんでっすか? 『っす』は敬語っすよ敬語。体育会系では由緒正しき敬意を表す言葉っす!」
安っぽいキャスター付きの椅子に体重を預け、ぎこぎこと嫌な音をさせながら、
「え、お前、体育会系だったの?」
意外である。
意外な事実に僕が驚きを隠せずにいると、
「そっすよ! これでも地元では『双葉二中のGHQ』なんて二つ名がついてたほどのユーメー人だったっす! 上下関係も、その中で叩きこまれたっす!」
「おお、すごいな。ちなみに何部だったんだ?」
「帰宅部っす!」
「おい!」
あまりにも悪びれもせず言うので、ついつい大きな声が出てしまった。帰宅部は部活じゃないし、当然帰宅部の上下関係は端的に言って無関係だ。いろんな思いを込めて言った「おい」だったが、
「いやー。
「からかうな……なんだったんだよ『GHQ』って……」
「Go Home Queenの略っすね。皆あたしの帰る速度にビビり散らしてたっす」
「ちょっと凝ってるのが癪だな……」
「帰るの速すぎて『来てるの気づかなかった―』ってよく半笑いで言われたっす」
「いじられてるよそれ……」
「『え、なんで来てんの?』とも真剣に言われたっす」
「いじめられてるよそれ……」
「そんなことないっす! ひたすらに速い帰宅を目指すその姿はまさしくアスリートっす。ひたむきに頑張る学生を誰も笑ったりしないっす」
「頑張る方向間違ってるけどな……」
「速度を追求しすぎて、最後は家から出なくなったっすね」
「もう不登校じゃん……」
与えられた情報を結び付ければ、「いじりがいじめに発展して学校に行けなくなった」という結構深刻な問題のはずだ。が、これすらも
あまりにもテキトーなことばかり言うので、正直、
僕がこの
読者諸君。話のテンポが悪くなって大変申し訳ないのだが、ほんの少しだけ回想に付き合っていただきたい。そうしないと僕の気が済まない。それほどまでに、
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