第2話

「あの子、何なのよ!」

 本条吹雪は人前で珍しく腹を立てていた。

「しょうがないよ。あの子、山寺明日香でしょ。バスケ部で1年からエースで有名じゃん。

「だからって、デリカシーがないのとは関係無いじゃん。」

「ほら、みんなにチヤホヤされてるからね。あの子は。」

「吹雪は重いからね。特に敏感になるよ。」

「だから、デリカシー!!」

「なんか今日の吹雪は怖い。もしかして、生理?」

「違う!!!」

 吹雪はからかわれながらも日常へと戻っていった。それでもこんな会話をしたからだろうか、生理を迎えたばかりの頃を思い出していた。

 吹雪の生理は重かった。腹痛頭痛に発熱といった症状が出ては毎月2、3日は学校を休んだ。見かねた母親は吹雪に薬を与えた。それで、何とか学校生活を送れるようになった吹雪だが、体育は必ず休んだ。薬では、吹雪の生理痛を激しく動けるほどには抑えられなかったからだ。

 最初は苦虫を噛み潰したような顔で同級生を見ていたが、その内になれて、気がついたら文化系少女に変わっていった。

 吹雪は楽しそうに身体を動かす同級生を見ていると、なぜかムカムカしてくるのだが、それはきっと生理のせいなんだと自分に言い聞かせて。


 一方その頃、山寺明日香は体調を少し崩していた。部活を抜け出しトイレにこもる。数日前からお通じが良くなり、トイレに駆け込む回数が増えていた。そして、部活中にもよおし、我慢できなくなってトイレに入り、今に至る。

 山寺明日香は、少し漏らしたかも、と思い履いていたショーツを確認した。そこには、血に濡れたスポーツパンツがあった。

 吹雪は帰り際に体育館へと立ち寄った。なんとなく、部活中の明日香を見てやろう、と思ったからだ。しかし、そこに明日香はいない。それでも、汗を流して駆け回る彼女たちを羨ましいな、と眺めていた。

 部活動が中断し休憩に入った時、1人の部員が吹雪へと近寄ってきた。

「どうしたの?」

「明日香さんにお礼を言おうと思って。昨日、落とし物を届けていただいたので。」

「明日香のファンね。あの子はトイレに行ったきり戻って来ないよ。」

「明日香、ここ数日は体調が悪いって言ってました。」

「もしかして、勝手に早退しちゃったのかな。早退するのは良いけど、一声かけてほしいんだけどな。」

 吹雪はそれを聞いて、話に割り込んで来た部員に詰め寄った。

「体調が悪いって、具体的にはどんな症状を言っていたの!?」

「えぇと、頭が少し痛いとか、気持ち悪いとか、トイレが近くなったとか言ってたかな。」

 この脳筋共が!と頭の中で一通り罵倒して、吹雪は体育館の近くの女子トイレに駆けて行った。

 女子トイレの個室が1つ閉まっていた。中から泣き声が僅かに漏れてくる。吹雪は扉を、とん、とん、と優しく叩く。

「あの、本条吹雪だけど。だいじょうぶ?」

「うん。だいじょうぶ。ありがとう。」

「みんな、経験することだからさ。明日香もそのうち慣れるよ。ナプキンいる?」

「ありがとう。」

 キィィと鳴った扉が僅かに開く。吹雪はそこにナプキンを差し込んだ。その時、目を赤くして少し微笑んでいる明日香の顔が見えた。思わず顔を反らした。

「わたしはさ。初潮って小学4年生だったんだ。お母さんが予兆に気がついてくれてね、学校休んで家で迎えたんだ。わたしにはお母さんがいたから何とかなった。だから、今度はわたしが明日香を助けるよ。7年先輩だからね。何でも来いって。」

「それじゃあ、本条先輩。ナプキンの使い方教えて下さい。」

「ドーンと任せなさい!」

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