開花
あきかん
第1話
胸のしこりを初めて感じたのは十歳を迎える前だったと思う。
何だろう、これ。と思って胸を揉んだりしていたら、お母さんが真剣な表情をして問いかけてきた。
「なんか胸がムズムズするの。なんでかな。」
「お母さんもそうだったのよ。これからいっぱい辛い事もあるけれど、その時はお母さんに相談してね。」
「お父さんじゃ駄目なの?」
「お父さんじゃわからないわ。」
今から思えば、それが初めての生理の前兆であった。それから7年間、毎月血で濡れたナプキンを捨てる生活が始まった。
本条吹雪は高校2年の春を本と共に過ごしていた。中学生の頃から体育を休みがちだった彼女は活発的なクラスの上位グループから
離れ、今はおとなしい文化系のグループに所属している。小学生の時には男勝りで身体を動かすのが大好きだった彼女を憶えている人間はこのクラスにはいない。
「今度の櫻いいよの新作買った?すごく良かったよ。」
「なんて題名?」
「きみに「ただいま」を言わせて」
「へぇ、面白そう。」
吹雪はそう答えたが、少年ジャンプの話もしたいとも思っていた。大量生産されるロマンチックラブストーリーも大概読み飽きていたのだ。彼女の友人たちも少年漫画の話をすれば合わせてくれる。しかし、それは吹雪が望むようなたぐいの会話にはいつもならない。彼女たちが醸し出す雰囲気にあった会話が繰り返されるだけだ。それは誰でも同じ事だ、と半ばあきらめながらも吹雪はとりつくろうように笑顔を浮かべた。
「西条さんって子、いる?」
ガラガラとドアを開けて入って来た大柄の女子が、体格通りの快活な声をクラスに響かせた。
「西条はあそこだよ。」
クラスの男子が私たちを指差すと、その女子は大股で私たちに近づいてきた。
「西条さん、これ下駄箱の所で落としてたよ。」
そう言ってその女子はナプキンを掲げた。
「あんた、ちょっと来て!」
吹雪はとっさ的にその女子の腕を掴んでクラスを出た。そして、女子トイレに連れ込んだ。
「あんたさぁ、どういうつもりなの?」
「どういうつもりって、ただ落とし物を渡そうとしただけだよ。」
「ガキかよ。わたしはナプキンをクラス中に見せびらかせて西条さんに渡そうとした事を言ってんの。」
「それの何処が悪いのよ。」
「デリカシーがないって言ってんのよ!」
「わたしには、わかんないや。」
「もういいよ。ナプキンは私が西条に渡しておくから。」
本条吹雪と山寺明日香の出会いは最悪の形であった。
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