あなたは冒険者であり、冒険を終えて生まれ育った辺境の町に帰ってきた。あなたが終えた冒険は、言うまでもなく猫探しだ。

 最初に遺跡の最深部で猫を回収した後に、休む間もなく雪山に登ったあなたは猫と、ついでに遭難しかけていた同業者を回収して下山した。雪山の環境は過酷だが、特に強力な魔物と出くわさなかったのは幸いと言えるだろう。

 猫のついでに連れ帰った冒険者は泣きながら礼を言っていたが、あなたはあくまで猫を探しに来ただけなので、気にするなと一言だけ告げて、麓の村にある宿屋に凍えて死にかけていた冒険者を預けた。その後、あなたは最後の一匹を回収する為に、隣国の帝国へと向かった。

 最後の1匹は、どうやら帝都のお城に居るようだ。あなたは一度行った事のある町や村へと一瞬で移動する事ができるマジックアイテム『転移の石テレポートストーン』を使用して帝都までひとっとびで移動し、そのまま、のそのそと皇帝の居城へと入っていった。

 この城は猫達のお気に入りスポットのひとつであり、その為、過去に何度も猫を回収する為に訪れた事がある為、入口に立っている門番とは、すっかり顔なじみの仲である。


「おう、そろそろ来ると思ってたぜ。いつもご苦労さん」


 こんな調子で手荷物のチェックをする事もなく、あなたはあっさりと顔パスで城門を通過した。

 そして、あなたはまっすぐに、猫が居る場所に向かって進んでいき、すぐに最後の1匹を発見する事ができた。

 あなたの姿を見つけて駆け寄ってきた猫を回収して、今日の仕事は終わりである。さあ、猫達を幼馴染のところに連れて帰るかと考えた、その時だった。


「待てぇい!」


 あなたを呼び止める者がいた。それは、ドレスを着て、金色の髪の上にティアラを乗せた、幼い少女だった。この国の皇女である。


「性懲りもなく現れおったな、お猫様を連れ去る悪者め! ものども、であえ、であえーっ!」


 このロリ皇女はあなたの幼馴染に負けず劣らずの猫好きであり、遊びに来た猫を連れ帰っていくあなたの事を敵視していた。


「あやつをひっとらえるのじゃ! ただし、お猫様を傷つけないように細心の注意を払うのじゃぞ!」


 皇女の命に従い、集まった兵士達があなたを捕えようと殺到する。あなたは押し寄せる兵士達に背を向けて、猫を連れて城から脱出するために脱兎の如く逃走した。

 毎日のように猫を探して各地を歩き回り、時には逃げる猫を追いかけて捕まえる事もあるあなたの足は、常人にはとても追いつけない速度を誇る。兵士達もそれは承知の上とばかりに、地の利を生かして待ち伏せや包囲を行なおうとする。

 それらを全て躱しきって、あなたはゴールである城門まで辿り着いた。城内には安全の為に転移テレポートを阻害する結界が張られている為、転移の石を使って逃げる事は出来なかったが、城門を出てしまえばこっちのものだ。


「いつもご苦労さん。また来いよ」


 できればもう来たくないと思いつつ、あなたは衛兵に挨拶をした後に転移の石を使い、故郷の町へと帰還したのだった。


 こうして猫探しを終えて街に戻ってきたあなたは、幼馴染の待つ領主官邸へと向かった。

 町で一番大きな館に近付くと、門の前には一人の女性が立っていた。彼女が依頼人であり、あなたの幼馴染の娘だ。

 あなたと猫の姿を見つけた彼女は、その整った顔に笑顔を浮かべて嬉しそうに駆け寄ってくるが、それを見た猫達はあなたの頭の上や、腕の中からするりと脱け出して、門を軽々と飛び越えて家の中へと走っていった。

 いつものように猫に逃げられた事で、幼馴染の笑顔が一瞬曇るが、彼女は気を取り直してあなたに近付き、嬉しそうに笑った。


「おかえりなさい!」


 ただいま。

 そう言って、あなたは幼馴染と並んで領主の館に入っていった。

 その後は一緒に夕飯を食べて、今日のささやかな冒険の土産話をしたり、猫達の遊び相手を務めたりした後に、冒険者組合に戻って美人の受付嬢に依頼の完了報告を行ない、自宅に帰って寝床につく。こうしてあなたの一日は終わった。


 そして、一夜明けて次の日の朝。

 いつものように冒険者組合に顔を出したあなたは、やはりいつものように他の冒険者達に避けられながら、笑顔の素敵な受付嬢に、猫探しの依頼を紹介された。


 逃げ出した猫の、今日は行き先は魔王城だ。

 あなたはやれやれと溜め息を吐きながら、いつものように猫を探す旅に出るのだった。

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