改めて思うが、綾原久世という人間はとても奇妙な人間だ。


 うちの高校は制服が存在せず、皆私服で登校している。しかし、久世は何故かセーラー服で毎日登校している。本人曰く「前の高校の制服」らしいが、そのセーラー服が白色なのだからまあ目立つ。色白で、薄紫の髪と相まって儚げな雰囲気を醸し出してはいるが、本人の性格は儚げとはかけ離れている。喋り方はなぜか偉そうだし、愛想はない。(これはわたしも人のことは言えないが)


 そうした性格と、見た目の異形さも掛け合わされて、転校して一カ月も経たないうちにクラスの中では浮いた存在となっていた。

 そんな見た目的には目立つが、性格に難ありな転校生と、誰とも関わろうとしないわたしが隣同士にされて、クラスメイトたちは胸を撫で下ろしたことだろう。わたしが彼らの立場になって考えたってそう思う。彼らはわたしたちをいないものとして扱っていた。


 しかし、わたしと久世が関わるようになってから、彼らの目が一変した。今まではわたしが何をしたって無視を決め込んでいる人が大多数だったのに、わたしと久世が話しているだけで、クラスの大多数が奇妙な目で見るようになった。確かに、わたしは今まで誰とも積極的にコミュニケーションを取らなかったのだから誰かと話しているのを不思議に思うのはわかる。それもその相手が変な転校生なのだからなおさらだ。だが、そんなに見なくても良いじゃないか。


 外野にそんな目で見られるのが嫌で、わたしはここ数日学校には行かなかった。


 今日、久しぶりに教室へ入るなり、わたしは相変わらずあの目で見られた。人を品定めするような目。うんざりだ。久世はそんなのお構いなしにのんきに「岸乃、ちゃんと学校にこい」とわたしに説教を垂れた。気分が悪い。おまえに説教される筋合いはない。

 わたしは若干の居心地の悪さを感じながら、大人しく授業を受けた。(とはいってもその大半は寝ていたが)


 5時間目の授業が終わり、帰ろうとすると、おい、と久世に呼び止められた。

「なにやってるんだ」

「何って、帰る」

「今日は6時間目まであるぞ」

「知ってる」

「じゃあ何で帰るんだ」

「帰りたいから」

「それは理由にならない」

 久世はわたしの腕をがっしりとつかんで離さない。わたしが授業に出ないことがそんなに問題なのだろうか? 進級は出来るギリギリでしかサボっていないし、他人に気にされるようなものではない。


「ほっといてよ」

「嫌だ」

 何故この女はここまでに頑固なのだ? 腕を振り解こうと思ったが、周りがわたしたちを見ていることに気づいた。あの、嫌な目だ。

 嫌だ。そんな目でわたしを見るな。今まで通り無視してくれ。教室の中でいないものになっているままでよかったのに。

 わたしは、机の横にかけてあった久世の鞄を引っ掴むと、腕を離さない久世と一緒に教室を飛び出した。久世は何かをずっと喚いていた気がするが、何も聞こえなかった。

 こんなクラスも、自分も、もう散々だ。

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