Ⅱ
それから一週間後、私は友人と呼べる人間関係を築くことに失敗し、学校生活のすべてを一人で過ごすこととなった。どうしていつもこうなのだろうか。コミュニケーションの基本は同調だと聞いたことがあるが、同調すればするほど人が寄り付かなくなっている気がする。
チラと隣を見た。三時間目から来た葦川岸乃は前と変わらず本を読んでいた。
一週間前に彼女らが教えてくれたことはどうやら真実だった。気づいたら隣にいたり、かと思えばいつのまにかいなくなっていたり。授業も出ていたとしても八割方寝ている。しかし丸付けの為に交換した小テストが毎回満点であることを見るに、相当優秀なのであろう。この学校は有名な進学校であったから、彼女自身かなりな秀才のはずだ。おまけに運動も出来るらしい。もう怖いものなしじゃないか。
如何して彼女は、そんな様々な才能を持ちながら、こんな行動をして居るのだろうか? 私は段々と彼女に興味が湧いてきた。もっと葦川岸乃という人間を知りたくなった。
「なあ、何の本読んでるんだ?」
私は気づいたら、彼女に声を掛けていた。彼女は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに私を睨み、本に目を戻した。
「ふうん、ドストエフスキーか。私も好きだ」
私は構わず喋り続けた。相変わらず葦川岸乃は無視を決め込んでいた。外野はそんな私と彼女を遠巻きに見てこそこそと会話をし始めた。構わない、彼女が反応するまで喋り続けてやろう。
「他にはどんな本を読むんだ? いつも本を読んでいるだろう。気になるな」
「……何? 鬱陶しいんだけど」
葦川岸乃はさっきよりもキツい目つきで私を睨んだ。外野は心底驚いたような顔をした。
「お前のことを知りたいんだ。話がしたい」
「わたしはしたくない」
「私はしたい」
葦川岸乃は溜息を吐いた。その瞬間チャイムが鳴り、教師が教室へと入ってきた。それで外野は解散し、私も自分の席へ着いた。葦川岸乃は、
「わたしに関わらないで」と言った。隣の席だから聞こえてないはずがないのだが、私は聞こえていないふりをした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます