春嵐の中で歌う
@neko_waka
Ⅰ
其の人の姿を見たのは、私が転校してきてから3日後の事だった。
不自然に空いた隣の席。勿論気にならない筈がなかったが、誰に聞いても「関わらない方がいい」と言うばかりで何も教えてはくれなかったのだ。唯、「アシカワキシノ」という名前だけが私に与えられた情報だった。
朝、学校に行くと隣の席に見知らぬ少女が座っていた。灰色の髪を二つに結った其の少女は、私に一瞥をくれると、読んでいた本の世界に再び戻ってしまった。
「アシカワさん、今日はいるんだね」
後ろからそんな声が聞こえた。振り返ると、二人の女子生徒が話をしていた。
「アシカワって、私の隣の──」
「ああ、綾原さんは今日はじめてだっけ」
「そうだよ。葦川岸乃。うちのクラス、いや学校きっての問題児」
「遅刻や早退は当たり前。授業に出てたとしても八割は寝てるし、それなのに成績は学年トップ」
「話しかけても睨まれて無視されるだけだし、綾原さんも関わらない方がいいよ。触らぬ神に祟りなし、ってやつ」
彼女らは聞いてもないことをべらべらと喋った。大きい声だったので確実に本人にも聞こえているだろうが、本人は素知らぬ顔で読書を続けていた。言われ慣れているのだろう。
これが、私と「葦川岸乃」の出会いであった。
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