ドルオタ殺人事件
〈人物紹介〉
・森土くるみ…来世は土になり隊の生壁色担当。
・園土ふまれ…来世は土になり隊の灰汁色担当。
・墓土ほりこ…来世は土になり隊の憲法色担当。
花は最近女性地下アイドルにハマっているらしい。
「このご時世に地下アイドルしている時点で、承認欲求拗らせてそうというか、自撮りとか上げちゃったりして、うん同類なにおいがするというか」
それがハマっている理由だそうで。花らしくとても歪んでいる。
今日は花が熱を上げている「来世は土になり隊」というアイドルのライブに無理矢理連れてこられた。
この「来世は土になり隊」は、来世は人間ではなく、万物の土台であり、自我を持たずに済む土になるために徳を積む修行(ライブ)をするというコンセプトのアイドルらしい。そのため、地下アイドルにありがちなメンバーカラーがこのグループにもあるのだが、全員微妙に異なった茶色である。区別つかねえよこんなの。つーかサイリウムどうすんだよ…。茶色とか売ってんのか…?
「良いよね、ありきたりな赤・黄・ピンク・緑・青・紫・水色とかじゃなくて茶色とか斬新」
斬新だったらいいってもんじゃないぞ。そう思うが、言ったら花の機嫌が急降下するから言わない。
今日はミニライブとチェキ会が行われる。チェキ会とは好きなアイドルメンバーとツーショットでチェキが撮れるというものだ。一枚二千円する。オタクってすげえなぁ…。
高校生な上に、薬代やら病院代やら剃刀代やらがかかる花がしょっちゅうライブやチェキ会などに行けるわけがなく、今回が初参戦だった。そのため、花は大変ご満悦だ。
「花が超絶推してる墓土ほりこちゃんとチェキを撮るんだ!」
…すごい名前だな…。土になりたいのに掘ってしまってよいのだろうか。そもそも墓の土を掘るとか不謹慎だろ。
ミニライブ自体は無料なので、俺が連行されたわけだ。
「みんな~!今日は楽しんでね!」
ミニライブが始まるようで、メンバーが出てくる。うおっ、絶妙な可愛さだな…。
「ライツチ自己紹介始めるよー!」
「はいっ、自然」
『大好き!』
「来世は森の土になって」
『死骸を優しく包みたい!』
「生壁色担当の森土くるみです!」
木の幹をイメージした柄のトップスにこげ茶色で土をイメージしたスカート。髪は緑でねじりあげられている。土っていうか、森を前面に押し出した衣装である。全然可愛くない。
「はいっ、幼児」
『大好き!』
「幼児に走り回って踏みつけられる」
『私は土になりたい!』
「灰汁色担当の園土ふまれです!」
へ、変態さんだー!いろいろアウトというか。その名前の時点で徳積めないのでは?衣装は担当色を無視し、園児服である。髪は綺麗な栗色に染められている。
確かメンバーは三人だったはずなので(大人数考えるのが作者はだるかった)次は一番人気で花の推しが出てくるはず…。
「はいっ、お前ら~、墓に入れると思うなよ?」
『勿論です、ほりこ様!』
「死んだら墓を暴いて粉々にしてやるからな?」
『勿論です、ほりこ様!』
「憲法色担当の墓土ほりこです!」
あ、うん。なんかコール&レスポンス一人だけ雰囲気違くないか? 衣装は茶色と黒のゴスロリで、墓や棺をイメージした柄がついている。髪は姫カットで黒。茶髪じゃないのかよ。あぁ、確かに花が好きそうだね。
ライブが始まる。歌は被せで、ダンスはゆるゆるだった。二曲披露していて、タイトルは「恋は土味♡」「私は土になりたい」。描写するのは色々な意味で辛いので割愛する。
ミニライブが終わり、メンバーが一回楽屋に引っ込む。いよいよ花のお待ちかね、チェキ会か…。
そう思った時だ。
「きゃーーー!」
来世は土になり隊の悲鳴が響き渡る。
「これは…事件の予感!」
探偵の血が騒ぐのか、すぐに楽屋へと駆け付ける。
「間近でほりこちゃん見れる…ぐへへ…」
…違ったらしい。
楽屋に入ると、人が倒れている。顔が誰だか分からないくらい殴られている。犯人はよっぽど被害者に恨みがあるんだろうか。
花が素早く近づいて、脈をとる。
「残念ながらもう亡くなっているわ、死体に触っちゃだめよ」
すると、ほりこが駆け寄ってワッと泣き始めた。
「この人…私のオタクなの…顔がどんなにぐちゃぐちゃでも分かる。いっつもこの痛バ提げて会いに来てくれるもん」
床には、ほりこの缶バッジがたくさんついたバッグが転がっている。
すると、腕をサクッと切る花。そして、読者の方を向いて言った。
「私、犯人分かったわよ!」
「えっ、捜査は…? 推理は…?」
「天才名探偵花様にはそんなもの要らないのよ! 読者たち! 当ててみなさい!」
~読者への挑戦状~
この、全くのアンフェア状態から犯人を当ててみてください。ていうか、何で読者への挑戦状ってあんなに偉そうなんですか? 作者のどや顔が透けて見えるというか。私はそのような読者への挑戦状への挑戦状という気持ちで読者への挑戦状を書いてみました。
「犯人はほりこちゃんよ。だって、被害者彼女のオタクだもん。あと、きっと読者はこの楽屋密室だと思ったでしょ。残念でした。やっすい地下アイドルの楽屋に鍵はありません。そんな密室多発してたまるかよ」
「推理雑―!? そんな、手がかりも推理もクソもなく被害者がほりこちゃんのオタクってだけで犯人な訳…」
「…そうよ、よく分かったわね。私が犯人よ」
ほりこが自嘲めいた顔で笑う。
まさかの本当に犯人だった。
(これが本当のアンチミステリ、ってね!)という顔でこっちを見てくるのやめろ、花。そろそろミステリ好きから殺されるぞ。
「まあ、端的に言えば、オタクがキモかったから殺したんだけど。なんかさ、別に付き合ってなくてもさ、異性とご飯食べることってあるじゃん? 私、この前ユーチューバーのくずもちって人とご飯食べて宅飲みしたらさ、」
そういって、スマホを取り出し、インスタグラムの動画を見せてくれた。件のくずもちの動画だった。あっ、どう見ても宅飲みしているというか、ビールのジョッキを持ってめっちゃ笑顔のほりこちゃんがいた。キャラ崩壊している…。
「こんな動画載せやがってさ、おまけにタグ付けまでしてくれちゃって。そりゃあさ、載せないよ、アイドルだもん、私は。そしたら、この男じゃなくて私が炎上しちゃって」
そういって、ほりこはツイッターの検索窓に「ほりこ くずもち」と打ち込んだ。「グループに迷惑かけないで」「もっとプロ意識をもって」「アイドルが男と付き合っても良いけど、見えないところでやって」「だから歌もダンスも上手くならないんだよ」
「いや、だからさ、見えないところでやってたし、私そもそも何にもこの件に関して発信してないし。歌もダンスも上手くならないに至っては関係ないじゃん、この件と。ただの暴言だよ。つか、恋愛禁止じゃないし! グループのためとか、どうとか正当化しようとしてるけど、単に気にくわないだけじゃん。挙句、アイドルを傷つけるまで言う事じゃないって言うファンは非国民みたいな空気になってるし。言論の自由はどこにいったの?」
そう言って、憎しみに満ちた目で死体を見下ろす。
「その中でも一番ウザかったのがこいつ。私に一番金使ってるファンだからか、ずーっと『ファンだからこそあえて厳しいこと言うよ。やっちゃったことは仕方ないけど、その後の対応はなかった。笑って謝ってごまかすんじゃなくて、誠意をもってちゃんと謝って。でも、ほりちんのファンは絶対やめないからね』とかクソ長文リプ等々熱いメッセージを沢山いただいたわ。炎上が沈下しても恩着せがましくずっとファンだよとか言うから、楽屋におびき寄せて殺したの。本当は男と寝たかもしれないのが気にくわなかったけじゃないの? ていうか、お金を払っているからと言って、アイドルという偶像であったとしても、理想を押し付けていいの? そんなに私を非難できるほどファンどもは正しい人間なの? 不倫でもなんでも正しくなければ誹謗中傷レベルになるまで叩いていいの?」
泣き始めたほりこを花は優しく抱きしめる。
「いや、これはオタクが悪い。無罪無罪。花が無罪にする! 花は常々、少しでも叩けそうなことをぼろくそ言う最近の日本にちくしょうって思ってたの。アイドルの熱愛とか、アーティストの不倫とか良くない? 別に。ただの他人じゃん。エンターテインメントさえ提供してくれればどうでも良いじゃん。プライベートにまで口出すなよ。正しい倫理なんて最高につまらない」
何とも花らしい結論でこの事件は幕を閉じた。その後、口裏を合わせたメンバーは何食わぬ顔でチェキ会に登場した。
「ごっめーん、さっきの悲鳴驚かせちゃった? マネージャーが私のお弁当勝手に食べちゃったの! まじあり得ない!」
全く、ふまれは食いしん坊なんだから、と会場がドッと湧く。
花は無事、ほりこちゃんとチェキが撮れたようだ。良かった良かった。
「実はね、ほりこちゃんを警察に突き出さなかった訳はもう一つあって。警察に引き渡したら一緒にチェキが撮れないじゃない」
そう言って、花はまさに名前の通り花のごとく笑ったのだった。
リスカ探偵花ちゃん 花 @iamhana
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