第7話 ???日目 晴れ曇りのち雨
テントの外は土砂降りの雨。いつもなら聞こえてくる楽器の音も雨音にかき消される。
ザーザーザーザー。
突然だった。あの日もいつものようにエマと2人で探索していた。
歩いていると50人くらいの、楽器を担ぎ自転車で走行している集団と出会った。
「君達もどう?」と、集団の先頭にいる上半身はだかでラッパを吹きならしている男に言われた。
「楽しそうね!行こ?」
エマはいつもの調子で、僕の一歩先を行き先導する。
2人乗り用の自転車を貸してもらい、エマが前、僕が後ろに乗った。
「ほら見て!あんな楽器はじめて見た!」
「あの人ってテレビに出てる司会者よねぇ?日本では知らない?」
「みんな普段はどう過ごしてるんだろう。音楽祭が終わったら私もまた普通の生活か~」
などという会話をして僕は後ろでうなずいている。
「あなたも話して!」という催促をされたのでエマに質問してみた。
「エマはこの音楽祭について詳しいみたいだけど以前にも参加したことあるの?」
先頭の男がラッパを鳴らし、それに続いて周りも各々の楽器の音で応える。エマはその様子を見て微笑んだ。
「あるわよ!4年前だったかしら。」
4年前...。その言葉に耳鳴りがする。
「4年ごとに開催されてるの?」
「そうじゃないわ。不定期で行われるの。主催者も抽選で選ばれているってウワサよ」
「ちょっと待って!主催者が誰か分からないの!?入り口に立ってた人達じゃなくて?」
「彼らも主催者に雇われているわ。というよりかはボランティアで自ら志願してきた人達ね。誰も主催者が誰かは分からない」
そうだったのか。このまま何も手がかりが見つからなかったら明日にでも主催者の所に突撃しようと思っていた。何てことだ。運営もその時に招かれた人に任せられているのか。じゃあ最初から八方塞がりじゃないか。
「この音楽祭が開催されるたびに人がいなくなるの」
一瞬の静寂。
何?今とんでもないことを言わなかったか?
ペダルを漕ぐ足が一瞬止まり、からまりそうになる。
「数十人単位で。これもウワサだけど」
ウワサではないことはよく分かっている。ただ毎回それだけの人がいなくなっていたのか‥.。4年前の調べた資料にはそんなにも捜索願は出されていなかったはず。
「私は選ばれたい。」とエマは言った。
前をじっと見つめ表情は見えなかったけど、声はいつもよりも少し低く凄みを感じた。
そしてまた静寂。先頭の男がまたラッパを吹いた。
「なんてね!」
振り返ったときはいつものエマに戻っていた。彼女は顔をくしゃくしゃにしていつものように笑顔を振りまいた。
ザーザーザーザー。
雨が降りだし、エマが消えた。
正確に状況を説明すると、ステージ上での演奏を聴いていて、隣にいた中学生くらいの女の子に話しかけられた。どうやら道に迷ってしまったみたいなので、エマをその場に残し女の子に道案内をした。10分ほどで戻ってきたときにはエマは居なくなっていた。
ステージの客席をぐるっと回って探すがどこにもいない。それから半日ほど探し回っても見つからない。
雨も強まり一旦テントに戻ると、テントの前で女性が立っていた。後ろ姿で黒いロングヘアー。「エマ!」と呼ぼうとしたとき女性が振り返った。
「久しぶり」
突然。
4年前からずっと探していた。何の手がかりもなかったのに。
だけど突然。目の前に現れた。
「今までどこに?」
声がかすれる。もしかしたら声に出てなかったかもしれない。
彼女がゆっくりと近づく。
「雨が止んだら話しましょ。場所はかまくらみたいな建物のところ。」
アナウンスが鳴り響く。「本日の野外での演奏、公演は中止です。屋内に退避して下さい」
一瞬、アナウンスが鳴る方へ顔を向けた。彼女の方へ向き直ると、すでにいなくなっていた。
ザーザーザーザー。
雨が彼女を流してしまったかのように。
ザーザーザーザー。
雨は降り続ける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます