第4話 闇

 視界が暗くなったと思ったのに。辺りは真っ白。

 

 現実世界でも白い景色を見ていたけど。ここはまた夢の世界だ。その証拠に白い塔が立っている。この夢の中では白い塔だけが象徴のように存在感を放っている。ただ、前回のように走っていない。圧迫感も高揚感も感じない。かすかに不安感があり、少し息苦しい?

 その直後、不安の元凶が分かった。塔の上に立っている。前の夢とは違う。黒い翼を携えて、じっとこちらを見ている。全身が黒く、影のような漆黒の闇。その闇が塔を飛び降りた。塔は上の方から徐々に崩壊していく。音も無くあっという間に全壊した。その闇は地面に降り立ち、50メートル先で佇んでいる。僕は身動き出来ずにいる。瞬きも出来ず、息をするたびに不安の波が押し寄せる。闇は1歩ずつ僕の方へと歩き始めた。どんどん近づいてくる。息をするのがやっとでよろけた。するとそこで、30メートル先まで闇が近づいてきたときに自分の違和感に気付いた。僕も1歩ずつ闇の方へと歩いている。その距離が残り1メートルで、すぐにでも触れられる距離。その瞬間、今度は光を感じた。


 目を開ける。テントの中にあるベッドの上で横になっていた。枕元には良い夢が運ばれるというドリームキャッチャーが飾ってあった。


 「良かった!気分は悪くないですか?急に倒れたからびっくりしました」


寝ている自分の顔を覗き込む女性。この4年間探していた幼なじみ。では無かった。黒いロングヘアーに口元にある黒子。容姿はそっくりだけど、英語で話しかけてくれた女性は日系アメリカ人だろうか。


 これ、とドリームキャッチャーを指差す女性。


 「うなされてたから付けてみたんです。倒れたのは日射病らしいので、安静にしてたら大丈夫ですよ」

 

 話を聴くと、悪魔のような形相で近付いてきた男が突然目の前で倒れ、数人でここの簡易医療施設まで運んできてくれたそうだ。自分ならそんな怖い顔の男が近付いてきたら叫び声を上げそうだ。

 周りを見渡す。自分と同じように数人がベッドの上で横になっている。ある程度のセキュリティと設備は揃っているようだった。けれども、海外に来て自分のことは自分で守らなければ犯罪に巻き込まれてしまう。すぐに自分の荷物を探した。その様子を見て女性が、


 「大丈夫!ここは犯罪の心配はないわ。皆、譲り合って7日間を過ごしていくのよ。.‥あなた日本人でしょ!日本にも同じような精神があるわよね」と言った。


 持ってきていたリュックの中身を、念のために調べたが何も盗られた物は無かった。ペットボトルに入った炭酸水を譲ってくれた黒人の青年を思い出す。あれも譲り合いの精神だったのか。


 「ここは何も無い砂漠だけど、皆が力を合わせて過ごしやすい場所を形成していく。お店がいくつか出来ていたけどあれも1から建てたものよ。」


 あれもここにいる人が建てたのか。日本にも譲り合いの精神はあるけれど、ここまで逞しいものはなかなか感じない。


 「うなされて独り言を言ってたけど大丈夫?ヤミって聞こえたけど。ヤミってダークネスよね?すごい物騒な夢を見ていたみたい」


 闇。今でも体をまとわりついている。多分、日射病によるただの倦怠感だろうが。


 「闇に追われる夢を見ていた。全身が黒くて、翼が生えていて、悪魔のような姿だった。」


 「それは多分、夢の神ね。」


 「夢の神?」


 「そう、夢の神モルペウス。ギリシア神話に伝わる神様で、人間の夢に入り神のお告げを届ける力があるっていう。夢の中では人間の形をしてるけど、本当は夢の世界を素早く行き来できる大きな黒い翼を持った悪魔のような姿をしてるんだって。お父さんがちょっと詳しいからその受け売りだけどね。」


 悪魔のような姿に黒い大きな翼。まんま夢の中で見た形だ。


 「あなたはどんなお告げを受け取ったの?」


影のような漆黒の闇。あの不安は僕に何を伝えているのだろう。現実に戻ってきてもその不安は拭えていない。幼なじみと似た容姿の女性に出会ったことでより一層大きくなってしまった。

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