第3話 1日目 月曜日 晴れ

 辺りを見回すと一面真っ白な砂漠だった。

バス停を降りて10分ほどしか歩いていないと思うけど、そこには別の異国の地が広がっていた。様々な人種の人が、あちこちで陽気に話して歌って、騒いでいる。よく見ると出店のようなものもチラホラとある。洋館のような場所を想像したけど、まったく違う印象だ。

 人の波は相変わらず続いているが、砂漠も永遠に続いている。時刻は12時を少し過ぎた頃。容赦なく太陽の熱が人の波に降り注ぐ。喉もカラカラで何のために歩き続けているのか分からなくなってくる。

 すると、横を並走していた黒人の青年が「これ飲む?」とペットボトルに入った飲みかけの水を差し出してきた。

 そのペットボトルを受け取るか躊躇していると、肩に掛けていたカバンからもう1本ペットボトルを取り出し「あぁごめん、こっちのペットボトルは開けてないし冷えてるからこれ!あげる」

そう言うと強引にペットボトルを渡され、人の波に埋もれて見えなくなった。

 こっちの人は強引な人が多いのかなと思いつつ、黒人の青年に感謝して水をひと口飲んだ。水だと思っていたペットボトルの中身は炭酸水で、勢いよく吹き出してしまったが、喉を潤し歩く気力が蘇った。歩いている道中は砂嵐が舞って視界が悪く、どうしても足元を見ながら歩くしかなかった。すると、周りで小さな歓声が上がった。顔を上げてみると前方にはいつの間にかゲートが出現していた。ゲートの前では係員らしき人達が数人並んでいて、そこに列が出来ている。どうやらここが入り口なようだ。自分も列に加わり黒い便箋を見せた。

 「ヨウコソー、タノシンデー、コンニチワー」と、カタコトの日本語で迎えてくれた。

 ゲートを入っても砂漠の景色は依然変わらない。そこからさらに300メートルほど歩く。そこに10人ほどが円になって楽器を演奏する団体に出会った。ギター、タンバリン、フルート、チェロに見たこともない楽器が数種類。各々が好き勝手に演奏していてまるでリズムが合っていない、というよりはあえて合わせていないようだ。みんな笑顔でとても楽しそうだ。仕事に追われ、純粋に音楽を楽しむことをしばらく忘れていた。

 その場で演奏を聴いていたら、一瞬、人の波に見慣れた顔を見た気がした。必死でその人物を目で追った。再びその人物を視界に捉え走る。この4年間必死に探した。だけど、何の手がかりもなく諦めかけていた。あと1メートルの所まで近づくと、その人物は振り返った。その瞬間、突然視界が暗くなり奈落の底へと落ちていった。

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