第42話 麻沙美先輩のお家で⑥
「さてさて、勝敗も決まったことだし、勝者には報酬が与えられます」
「え? そうなんですか?」
「そうなんです」
そんな話は聞いていないのだけど、
となるとやはり、敗者に対する罰ゲームも覚悟しなくてはならなそうである……
「といっても、今から賞品は用意できないので、報酬は敗者への命令権だ。さあ、何を望む?」
(やっぱりか……)
どうせ王様ゲーム的なヤツになるだろうと思っていたが、その通りになってしまった。
(麻沙美先輩が勝たなくて本当に良かった……)
これが麻沙美先輩だったらと思うと……、想像するだけで恐ろしい。
「藤馬君に命令、ですか……」
伊万里先輩は顎に人差し指を当ててうーんと唸る。
実にあざとい仕草だが、そうだとわかっていても可愛いモノは可愛い。
「やっぱりキスとかはして欲しいですけど、それは二人きりの時の方がいいですし……」
「伊万里、せっかくの命令権なんだ。普段お願いできないようなことがいいと思うぞ」
「麻沙美先輩はいらんフォローを入れないでください!」
余計な入れ知恵で、伊万里先輩がスゴイことを命令してきたら堪らない。
先程の戦いで、僕の体はもう限界が近いので勘弁して欲しい。
「……でも、普段お願いできないようなことと言われても、パッとは思いつきませんよ」
「別に深く考える必要はないんだよ。本能に従えばいいんだ。例えば、舐めて欲しいとか」
「ちょっ!? 麻沙美先輩!?」
何を言い出すんだこの人は!
なんで本能に従うと舐めて欲しいになるんだよ!
「別に、私は間違ったことを言ったつもりはないよ? 多くの女性は、本能的に男性に舐めて欲しいと思うものなんだよ。どことは言わないでおくがね。男の君にだって、そういう願望があるんじゃないかい?」
「……あ、ありません!」
「今、一瞬考えただろ~」
確かに、考えてしまった。
いや、だってそういうプレイもあるみたいだし……
「伊万里もまんざらでもなさそうじゃないか。どうする? 今なら公然的に願望を暴露するチャンスだと思うけどなぁ~」
「ま、麻沙美先輩! そそのかすのは反則ですよ!」
恥ずかしそうに顔を赤らめる伊万里先輩を、麻沙美先輩が心底楽しそうに煽っている。
それを阻止しようと僕も割り込んでみたが、残念ながら麻沙美先輩の言う通り、伊万里先輩はまんざらでもなさそうな感じがする。
これは本当にマズいかもしれない。
「そ、それじゃあ、その、耳にですね……、キスを、して欲しいです」
っ!?
意外なことに、僕の想定よりも遥かに軽い内容が口にされる。
そのくらいであれば、全然OKである。
「おっと伊万里、内容は正確に伝えなきゃ駄目だぞ? キスはキスでも、ディープなやつをお望みなんだろ? いや、より正確に言えば、舐めしゃぶって欲しいということなんじゃないか?」
麻沙美先輩の発言に、伊万里先輩は顔を真っ赤にして俯いてしまう。
つまり、図星ということだ。
(マジですか。伊万里先輩……)
「……その、以前藤馬君の耳そうじをしたことがあったじゃないですか? あの時、自分もしてもらえたらなんて思ってたんです。本当に、最初はそれだけだったんですよ?」
しかし、その後のあれこれで色々と願望が膨らんだということなのだろう。
あの体験をした僕だからこそ、その気持ちはわからなくはなかった。
ただ、いざやるとなると……
「ハッハッハ! 決まりだね。さあ藤馬君、お姫様の耳に、優しくねっとりとキスしてあげるんだ!」
背中を押され、伊万里先輩との距離がグッと近づく。
伊万里先輩は恥ずかしそうに顔を俯かせつつも、僕をいざなうように髪をたくし上げ、耳をあらわにする。
(ゴクリ)
目にしているのはただの耳なのに、綺麗に赤らんでいるせいか、妙に蠱惑的に見えてしまう。
そのせいか、さっきまでの拒否感は一切なく、吸い込まれるように僕の顔は引き寄せられていった。
「ほほ~う! 素晴らしい表情だ! なあ伊万里、これは写真にとってもいいだろ?」
「絶対ダメです!」
僕からは角度的にちゃんと見えないが、麻沙美先輩の反応から想像すると、めちゃくちゃ可愛い顔をしているに違いない。
是非とも僕も見たいので、今だけは麻沙美先輩を応援したい気分であった。
「……それじゃあ、いきますよ」
僕がそう声をかけると、伊万里先輩が弛緩したように固まる。
そして……、
「はむ」
「☆#$%&wっ!?」
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