第31話 そして再びカラオケへ……
そんなワケで、逃亡に失敗した僕は再びカラオケへとやってきていた。
連日の来店で怪しまれないかと冷や冷やしたが、今日は違う店員さんだったのでホッと胸を撫でおろす。
「今日の部屋はちょっと広いですね」
「そうですね」
先日僕らが入った部屋よりも、今日の部屋は少し広めだ。
もしかしたら人数が増えたから、通される部屋のサイズが変わったのかもしれない。
「さてさて、早速だけど藤馬君、キスをしようか」
「いきなり過ぎます! 落ち着いてください
いきなり吸い付いていて来ようとする麻沙美先輩を、僕は持てる力を振り絞って追い返す。
「おや? 藤馬君は知らないのかい? 最近のカラオケは、ゲームをしたりコスプレしたりできるようにもなっているんだよ? 必ずしも歌わなければいけないというルールは無いのさ」
そういえば、そんな話を聞いたことがあるような気もする。
夏場はクーラーのある個室でドリンクバーやアイスを楽しめたりできるし、色々な目的で利用されるのだとか……
「で、でも、やっぱりそういう行為は……」
「
「うっ……」
返す言葉もございませんとは、まさにこのことであった。
「まあ、その点については心配しないでもいい。本番行為ならともかく、キスくらいではとやかく言われはしないよ。……まあ、ここは角部屋だから、大きな声を出さないようにすれば本番行為をしてもバレやしないんだけどね……」
何故そんな詳しいんだよとツッコミたかったが、ツッコんだら恐らく負けだ……
麻沙美先輩のことだから、嬉々として僕に詳細な説明をしてくるに決まっている。
「麻沙美先輩! 約束を守ってください! キスは私からです!」
伊万里先輩!? 何変な約束しちゃってるんですか!?
「そうだったそうだった。そのために準備したんだったよ」
「え……、準備ってなんのですか?」
「それはもちろん、藤馬君と伊万里のキスを指導するための準備さ」
……この人は、一体何を言っているのだろうか?
「伊万里との約束でね。朝の件はそれで手を打ったんだよ」
「ちょっ! 僕の知らない所でそんな司法取引みたいなことしないでくださいよ!」
「ごめんなさい藤馬君。でも、悔しいけどキスに関しては麻沙美先輩に一日の長があるから……。聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥と言うでしょう?」
「言いますけど! それをこういうことでやるのって、何か違いませんか!?」
というか、伊万里先輩的にそれはOKなんですか!?
「大丈夫よ藤馬君。ちゃんと私と藤馬君とで練習するって約束だから」
そういう問題なのか……?
……いや、最早何も言うまい。
既に二人の間で話がまとまっているのなら、僕が今から何を言っても無駄なんだろう……
「……わかりました。それで麻沙美先輩、僕達は具体的に何をすればいいんですか?」
「ああ、練習にはコレをつかう」
そう言って麻沙美先輩は、氷だけが入ったコップを僕らの目の前に差し出した。
「二人には、この氷を口の中で溶かしあってもらう」
……またとんでもないことを言いだしたぞこの人。
「ドリンクバーの氷はサイズ的にも丁度良くてね。練習にはもってこいなんだ」
「……成程」
「伊万里先輩、納得しないでください」
残念ながら、僕のツッコミは無視されてしまった。
ご家庭でもできる本格トレーニング! 的なノリで指導をする麻沙美先輩。
そしてそれを聞きながら熱心にメモを取る伊万里先輩。
果たして僕は、この後無事でいられるのだろうか……?
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