第27話 貞操のピンチ?



「藤馬君、私、今悩みがあるんです」



 ある日の帰り道、伊万里先輩がいきなりそんなことを切り出してきた。



「悩みですか? 僕で良ければ相談に乗りますけど」



 というか彼氏として、彼女の相談に乗るのは当たり前と言える気がする。

 こういうところでしっかりと男らしさをアピールしていかないとね!



「……じゃあ、笑わないで聞いて下さいね?」



「もちろん! 人の悩みで笑ったりなんかしないですよ!」



 例え伊万里先輩の相談じゃなくたって、人の悩みで笑ったりなんかしない。

 ……いや、永田のくだらない悩みとかなら笑うかもしれないけど。



「あのですね? 私ってその、キャラが薄くないですか……?」



「…………………………はい?」



 たっぷりと沈黙を挟んで、僕はそう返すしかなかった。



「藤馬君、凄い顔してます……。私、そんな変なこと言いましたか?」



 はい、言いました……、と言いたいところだけど流石にそれはまずいだろう。

 いやしかし、どう返したものか……



「あの、何故そんなことを? 僕は伊万里先輩のキャラが薄いだなんて一度も思ったことないですけど……」



 とりあえず、僕は真摯に本音で答えてみることにする。

 もし冗談だったとしても、これなら笑って返してくれるだろうし。



「それは嘘です。私って麻沙美先輩やお母さんに比べて、明らかにキャラが薄いですもの」



「……」



 そう言われてしまうと、僕は黙って返さざるをえなかった。



「ほら、黙っちゃうってことは、藤馬君もやっぱりそう思っているんでしょう?」



 いやいや、そういう問題じゃないくて、そもそもその二人と比較する必要って無いと思うんですが……



「私、麻沙美先輩に比べるとソッチ方面の知識も技術も不足していますし、お母さんには技術的な部分だけじゃなくスタイルまで負けてて、そのうえ二人には行動力もあって……。このままじゃ私、藤馬君からどんどん印象が薄くなりそうで……」



 いやいやいやいや、そんなこと、他所で言ったら絶対怒られるヤツですよ?

 伊万里先輩はキレイなうえにスタイルも抜群で、性格も良くって、しかもちょっとエッチっていう最高の女性なのに……



「せ、先輩、落ち着いてください! 確かにあの二人のキャラはかなり濃いですが、それで先輩のキャラが薄くなるなんてことはありませんから! 僕にとって伊万里先輩は、ちゃんとナンバー1でオンリー1ですよ!?」



「……本当ですか?」



「本当です!」



 こんなことで嘘を吐くハズがない。

 僕にとって伊万里先輩は、最高で唯一の彼女なのだから。



「……でも、やっぱり自信が無いんです。二人とも、凄く藤馬君へのアプローチが激しいですし。いつかは……」



「そんなことないですから! 確かに二人とも魅力的ではありますが、僕が二人を選ぶ可能性なんてありませんよ!」



 相手はバイセクシャルで他にも愛人を囲っていそうな人と、伊万里先輩の実の母親である。

 そんな二人を僕が選ぶ可能性なんて、まずあり得ないと言っていいだろう。



「……じゃあ、私に自信をください」



「え、自信、ですか……?」



「はい。私が藤馬君にとって、本当に1番の女性だという、自信が欲しいのです」



 伊万里先輩は真剣そうな眼差しでそう言うが、正直僕はどうすればいいのだろうか?

 ……考えてもわからないので、聞いてみるしかないだろう。



「あの、それは、具体的にどうすれば良いのでしょうか?」



「具体的には、その、ちょっと口には出しにくいですね……」



 口に出しにくい内容!?

 それはなんだろうか? やっぱり、ソッチ系なのだろうか?



「……あの、今日は麻沙美先輩もいないですし、二人でカラオケにでも行きませんか?」



「え、はい、それは良いですけど……」



 と答えてから気づく。



(あれ? 今の流れでカラオケって、伊万里先輩は一体ナニをするつもりなのだろうか……)



「ありがとうございます! では、早速行きましょう!」



 伊万里先輩は僕の手をしっかりと握って歩き出してしまう。


 ……これってもしかして、貞操のピンチというヤツなのではないだろうか?



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