第8話 先輩にマッサージ



「はぁ……、マッサージ、ですか……」



 そう言いながら先輩は落胆の表情を濃くする。



「な、なんでそんな反応するんですか! マッサージですよ!? しかも、僕からするんですよ!?」



 僕は慌ててそう返すが、先輩の反応は芳しくない。



「いえ……、だって先日はその、もっとスゴイ・・・ことしたじゃありませんか。ですので、もう次はC以降かなと……」



「いやいや先輩! 僕達、まだキスもしたことないんですよ!? そんな一気に飛び越してなんて……」



 そう言いながら、あれ、Bってなんだっけ? と考える。

 Aは確かキスだったことは覚えているが、Bって何をすればBなのだろうか?



「確かに私達はキスをしてませんので、A未満と言えるかもしれません。ですが、先日の件はBと言っても決して過言では……」



「ま、待ってください! 僕その、Bがなんなのか思い出せないんですが、どんな行為でしたっけ?」



「Bはペッティングですよ。今となっては死語となっているかもしれませんが、広義的には性交未満の愛撫などをさします」



 清楚な外見の先輩の口から、性交だとか愛撫だとかいう単語が出るだけでドキドキしてくる。



(しかしそうか……、Bって結構曖昧というか、範囲の広そうな内容だな……)



「でも先輩、それってお互いがってことでしょう? 少なくとも僕からは何もしてませんし、そもそも性的なことは一切してないじゃないですか」



「それは確かに……」



 先程も言ったように、僕達はまだキスすらしたことないのである。

 それをすっ飛ばしてCに至るなんて、僕的には絶対にありあえない。



「ではその、今日はキスをしてみませんか……?」



「っ!?」



 先輩が上目遣いでそう言ってくる。

 その破壊力は凄まじく、僕の理性は一瞬で吹っ飛びかけたが、なんとか踏みとどまることに成功する。



「み、魅力的な提案ですが、今日はその、まだ心の準備ができていないので……」



「そうですか……。まあ今日は藤馬君の方から触ってくれるということなので、それで良しとしますか……」



 先輩は諦めがついたのか、食い下がるのはやめてくれたようだ。

 その反応に僕は複雑なものを感じたが、これ以上何かを言うと話が進まなそうなので切り替えることにする。



「それでは先輩、ベッドにうつ伏せに寝ころんでください」



「はい」



 先輩は薄いカーディガンを脱いで、言われた通りに僕のベッドに寝ころぶ。



(先輩が、僕のベッドに……)



 自分のベッドに先輩が寝ころんでいるという状況に、胸がドキドキしてしまう。



(というかこの構図って、まるで僕が先輩に襲い掛かっているみたいだな……)



 背徳的な想像が頭をよぎるが、僕はかぶりを振って余計な考えを散らす。



「はぁ……、藤馬君の匂いがします……。これはこれで役得かも……」



「っ!?」



 僕がモタモタしていると、先輩が匂いを嗅いだりモジモジし始め、なんとなく不穏な気配を放ち始める。

 嫌な予感しかしないので、僕は覚悟を決めて先輩の背中に触れた。



「んっ……」



 悩まし気な声が聞こえたが、僕は努めて気にしないようにしながら背中を指圧していく。



「っはぁ……、これは、想像以上に、凄いかも……」



 先輩の反応を見て、僕はドキドキしつつもなんとか自分のペースを取り戻す。



(よし、反応は上々だ! 練習した甲斐があった!)



 ここ一週間ほど、僕は父さんや母さんにマッサージの練習相手をお願いしていた。

 初めは、先輩に対して何か対抗できるテクニックを探るという不純な目的だったのだが、意外にも僕にはマッサージの才能があったらしく、三日ほどでコツを掴むことができ、今では頻繁にねだられる程の腕前になっていたりする。



「どうです先輩? こことか、凄く気持ち良いでしょう?」



「ん……、はい、スゴク、気持ちイイ、です……」



 息も絶え絶えといった様子で返してくる先輩の反応に気分を良くし、僕は次々に先輩のツボを攻めていく。

 先輩は胸が大きいせいか結構肩が凝っており、中々にやり甲斐があるので少し楽しい。



「ふぅ……、っ……、あん……」



 気にしない、気にしないぞ……

 父さん達は、マッサージをしている時にこんな悩まし気な声を上げたりしなかった。

 極楽だ~、とかもっとオッサン的な反応しかしていなかったと思う。

 つまり、これは先輩の策略で、僕をドキドキさせるのが目的なのだろう。



(その手には乗らないぞ……)



 僕は気をしっかりと持ち、マッサージの方に集中する。

 肩甲骨を押し上げるように揉み上げ、続いてほぐすように指を開いていく。



「っ!?」



 その時、先輩が先程までとは違った様子を見せる。



「す、すいません、もしかして、痛かったですか?」



「い、いえ、そうではないんですが……」



 もしかして、今のが良かったのだろうか?

 であれば、ここを攻め立てれば……



「っ……! っ……!?」



 声にならない声を上げる先輩。

 普段攻められている分、こっちが攻める側に回れたことは中々に気分が良い。


 そのまま20分程かけて背中を攻めると、先輩は蕩けたように脱力し、大人しくなった。



(よし、このまま仕上げに移ってしまおう)



「それじゃあ先輩、今度は正面を向いてください」



「……ふぇ!? しょ、正面ですか? 普通、マッサージって正面はやらないんじゃ……」



「お店とかだと時間の関係もありますからね。でも、表側にも効くツボは結構あるんですよ」



 実は、お店で受けるマッサージには時間という制限があるため、最も効果的である背中に集中するという背景があったりする。

 しかし、個人でやる場合はそういった時間制限はないので、体の正面にあるツボの刺激なども気にせず行うことができるのだ。これは両親の反応も良かったので、先輩にも是非してあげたいのである。



「い、今すぐはちょっと……」



「問答無用です! さあ、転がってください!」



 僕はそう言って無理やり先輩を正面に転がす。

 先輩は抵抗しようとしたが、マッサージが効いているせいか、あまり力が出せないようであった。



「あっ……」



 正面になった先輩。

 真っ先に僕の目に映ったのは、先輩の豊かな双丘の頂点に立つ、二つのボッチであった。



「その……、さっきので、ブラが外れちゃって……」



「す、すいませんでしたーーーーー!!!!!」



 ――結局、今日も僕は逃げ出してしまうのであった……




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